48話:共に

 私はゆっくりと目を覚ます。

 お腹に重みを感じ目を向けると涙を流しながら"おじいちゃん"と呟くイヴが居た。

 身体中を見回すと黒い何かが傷ついた細胞を創り治している。

 それは彼女が頸に巻いているモノと直ぐに分かり、それと同時に彼女が助けてくれた事に対し嬉しくなる。


「きっとこれのお陰かな……」


 彼女の黒い魔力を見つめポツリと呟く。

 詳しい原理は分からないが彼女の魔力が直接私の細胞に触れた事により、彼女の秘められた過去を垣間見たのだろう。

 普通肉体の治癒なんて自身の魔力で包んで行う以外方法は無い為、前例なんて聞いたこと無いから推測の粋を出ないんだけどね。


 私のお腹に枕代わりにしているイヴを見つめていると"ん…"と小さく呟き目を擦り始めた。

 どうやら彼女も目を覚ますようだ。


「おじいちゃんは……」

「おはよ。イヴ」

「おはよ……っ!ア、アルシア!その…私……」


 起きて早々わたわたとした様子で私の身体をあちこち見る。

 自分の行いに相当な罪悪感を感じているみたいだ。

 そんな彼女を気遣い言葉を掛ける。


「気にしなくて良いよ。何とかなったし」

「それもだけどっ!……その」


 どうも煮え切らない様子の彼女に対し首をかしげていると、震える指でそっと私の右腕を指差した。

 それを見て思わず"げっ"と声を出してしまう。

 右腕はボロ雑巾の如くズタズタになっており、何とも無惨な姿になっている。

 それをハッキリと見て右腕の感覚がまるで感じないのに気付く。


「ご、ごめん。治そうと頑張ったんだけど…私の魔力を弾いて、それで……それで……」


 申し訳なさそうにわたわたと説明をイヴは始める。

 それに謝る必要なんて無い。てかむしろこっちが謝りたいのだ。

 何せ右腕には彼女の魔力を反射するようにしてぶっ壊したのだから、まぁ治らないのも当然っちゃ当然である。


 涙目になっている彼女を慰め左腕で抱き締める。

 今のイヴは昔の彼女そっくりに思えた。


「治してくれてありがとう。て言うか故意じゃないけど貴女の過去を除き見ちゃってごめんね」

「良いよ。そのお陰でおじいちゃんの事を思い出せたんだから」


 イヴは優しく話す。自身を守るために、あの出来事を記憶の奥深くに封じ込めていたのかも知れないとの事だ。

 きっと街を出ても影に引きずり込まれ戻されていたのは、過去から逃げてはならないと心の何処かで思っていたからなのだろう。

 兎に角イヴを救えたみたいだ。私はその事実が堪らなく嬉しい。


 ……と言ってもこれからどうしよう。

 イヴが治療してくれているとは言え、まだ足わ上手く動かすことは出来ない。

 それに彼女もこの街に居続けることは出来ないだろう。

 色々と考えてみるが、やはりこれが一番だと思い彼女に提案する。


「ねぇイヴ、私と一緒に旅をしてみない?」


 その提案に彼女は首を傾げると少し間を置き大変驚いた様子を見せた。

 そんなに驚く事だろうか?嫌だったのならちょっとショックだな。

 そう表情を少し曇らせると彼女は慌てて返答をした。


「行きたい!……でも私と一緒で大丈夫なの?」


 どうやら自分が足手まといにならないかを心配しているようだ。

 繊細過ぎてちょっと心配になる程だよ……

 そんな心配はいらない事をハッキリと伝える。


「安心してよ。私がイヴを守って見せるから!」


 ドンッと胸を打つ。強く打ち過ぎてビリッと雷が走ったように体が痛む。

 自業自得である。そんな私を心配した彼女を自分のバカさ加減に呆れながらなだめた。


 改めて街を見渡す。すると思っていた異常に壊滅的な光景が広がっている事を視認し、息を飲む。

 私達、結構暴れちゃったんだね。

 思わず頭を抱えるが考えていた所で街が綺麗になる訳でもない。


「一先ず、街の修復とここに住む人達に謝ってからだね」

「そうだね……」


 取り敢えず私は怪我人を探しその人達の治療、イヴは建物の修復と言った自身の役割を決めた。

 実際これをした所で簡単に街を出して貰えるかは分からないが、きっとなんとかなるだろう。


「良し!早速罪滅ぼしといっちゃお───」


 私は左腕を天に掲げ、罪滅ぼしの決意表明をしたところでトスッと何かが刺さる感触を覚える。

 霞む視界の中その矢を放った人の正体を知り、完全に意識は途切れた。


◆◆◆◆


 それは一瞬の出来事だった。


「……アル……え?…アルシア??」


 彼女は太陽みたいな笑顔を見せると同時に倒れる。

 そのこめかみには矢が刺さっており、彼女の顔色がどんどんと無気力なものに変わっていく。

 速まる鼓動と荒ぶる呼吸を何とか押さえゆっくりとアルシアに触れる。

 それを崩れた屋根の上で弓を構え見据える老婆が居た。


「悪いね。お嬢ちゃん」


 そう老婆は呟き直ぐに弓矢を構える。

 友人を目の前で射貫かれたと言う事実を理解できていない彼女の頭に標準を合わせ、矢を放つ。

 ヒョンッと飛んでくる矢の音を聞いた彼女はそれを掴み血を流す。

 彼女は矢を放った者の正体をその目に焼き付ける。

 ソイツはアルシアの前の監視員だった。


 イヴは憎しみの目を向ける。ヤツはあの日魔獣を殺した私を見て最初に魔女と言い出したヤツだ。

 でもそんなことはもうどうでも良い。

 私の友達を殺した……私を救い出してくれた友達を殺した。

 それが何よりもゆるせなかった。


 憎悪の影が身体を包み始めると同時に老婆の元へ一跳で近づく。

 直ぐに走り去ろうとする老婆を彼女は逃がしはしない。

 ヤツの顔の前に触手を柱のように刺し、行動を制止させた。

 その拍子に尻餅をついた老婆の目を見て口を開く。


「……どうしてアルシアを、何で私じゃなかった」

「当たれば何でも良かった。無魔力者あたしらにとってはどっちもバケモノさ」

「なら尚更だ!昔から腫れ物扱いしてた私を狙えよ!!」


 怒りに任せて触手をブォンっと薙ぎ払い、隣の瓦礫を吹き飛ばす。

 息が荒くなり目が血走る。今すぐにでも目の前のヤツを刻んでしまいそうな程に。

 老婆は顔色ひとつ変えずに立ち上がる。


「死ねと言ったらあんたは黙って死んでくれるのかい?違うのならりやすい方をるだけさ」

「ふざけるなよ。そんな理由で奪ったのか!?」

「先に奪ったのはそっちだろうに」


 老婆の顔面を貫こうとしたその時、彼女の発した言葉により寸でのところで動きを止める。

 その答えはイヴが疑問を浮かべると同時に出された。


「ロウはあんたのせいで死んだのさ」

「おじいちゃん……!?なんで、何でそこで──」

「アイツはあたしの幼馴染みさ。それをあんたは奪ったんだよ」


 じっくりと彼女を見据える老婆の瞳は恨み辛みと言った感情が渦巻き、黒く濁っている。

 動揺しつつも否定しようとした瞬間、その隙を与えんとばかりにヤツは言葉を連ねた。


「ロウの持病が悪化したのも、この街が魔獣に襲われたのもあんたが来たからだよ!」

「そんな……!そんな訳が───」

「聞いたよ、ロウをズタズタにしたのもあんただってね…恩人の味は美味かったかい?」


 老婆はイヴがロウを殺したと勘違いしているようだ。

 その事を否定しようとも言葉が出ない。否定の言葉が頭に浮かばない。

 浮かんでくるのはあの時助けられなかった後悔と、ズタズタに食い散らかされたおじいちゃんの無惨な死体だけだ。


 吐き気がする。見たくもないそれが鮮明に脳内に溢れ出すのだ。

 ガチガチと歯を鳴らし涙を浮かべる。気付けばイヴはその場にひざまづいていた。


「魔女の目にも涙かい……ならもっと泣いてもらうよ」


 老婆は過呼吸の彼女の髪を掴み振り向かせる。

 そこには槍を持つ何人かの住人がアルシアの元へ集まっていた。

 何をする気だろうかと思った瞬間、最悪の考えが頭を過る。

 震えながら不器用に首を横に振ることしか出来ない。


 住人は皆槍を振り上げる。イヴの呼吸はより荒くなり思わず目を閉ざそうとする。

 しかしそれは老婆によって許されない。

 片目を無理やり開かされ現実を直視させられてしまう。

 そして最悪の時は来た。一斉に振り下ろされた槍はアルシアの体を貫いた。


 返しのついた槍はアルシアの体からそう簡単には抜けず、住人は彼女を刺したままイヴに見せつけるようにして槍で持ち上げた。

 その彼女を見て思わず吐き出してしまう。


「それがあたしがあのロウを見た時の気持ちだよ」


 老婆は矢を握り締める。そうしてそれはそのまま嘔吐した彼女の頸に突き刺された。

 イヴは考える……"私は何だったのだろう。どうしてこの世に生まれてきたのだろう"と。

 しかしそんな事は考えるだけもう無駄である。

 何もかもを喪った彼女をここに繋ぎ止めておく理由はもうどこにも存在していない。


 その時アルシアの言葉を思い出す。そうだ、旅をしよう。

 彼女は一緒にしようと言ってくれたのだ。それに対して行くと言ったのだから行かなければ。

 その為には邪魔が多すぎる……先ずはそれを片付けよう。

 話も聞かぬそれを片付けよう……


「ここもやっと平和になるね」


 そう刺さった矢を抜き取ろうとした瞬間、腕を引き千切られた。

 老婆は混乱と痛みにより叫び出す。その声を聞いた住人達は一斉に恐怖する。

 そこに居たのは、身体がデロデロと崩れながら立つ黒いケモノだった。

 ケモノは恐怖した住人によって投げ捨てられたアルシアの遺体を見て発狂する。


「こ、この魔女バケモノが──」


 残った左腕でまた矢を刺そうとした老婆はスパンッと頸を跳ねられる。

 ノイズは遮断しなければならない。イヴはそう考える。

 ボトボトと黒い肉片が落ちていく。時間はもう無い。


 跳び上がり彼女の元へと着地する。それと同時に周りに居る住人を一刀両断した。

 崩れ行く身体でアルシアを持ち上げ、抱き締める。

 アルシアがどんどんとイヴの身体へと入っていく。


(あぁ……一つになる。アルシアが私の中で蕩けてく)


 崩壊した肉体はアルシアを取り込むにつれ元に戻っていく。

 彼女がイヴを形作っているのだ。イヴは何とも言えぬ高揚感に身を委ね蕩けていく。

 二人は黒い魔力の中で混ざり合う。それでも一人になる訳ではない。

 永遠の二人となるのだ。


 黒いケモノは歩き出す。彼女が望んでくれた旅をいつまでも出来ることを心から願いながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生者の青史~その者は青き異界で史実となる~ 結月 @YuzukiRX-0

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画