錨星の下のカルテ

日本が戦争へと向かう、昭和十三年の海軍兵学校。
広島県の江田島にあるエリート養成機関で、主人公の中山由樹は、なぜか五人だけが集められた「隔離部屋」での生活を送っています。
華族の家に生まれた彼が、この特殊な環境に疑問を抱くところから、物語は始まります。

明るい馬場、無口で射撃の腕がいい下、元軍医という経歴を持つ年長者の見林。
そして水泳の天才であった亀嶋がプールで死んだことから、物語はミステリの世界へと突入します。
彼の死をきっかけに、平穏な日常に隠されていた秘密が明らかになり、彼らは後戻りのできない状況に引き込まれます。

亀嶋の死の真相を追う過程で、見林が仲間の証言や日記の記述といった情報からインスリンの過剰投与という仮説を組み立てる場面は、医師が診断を下す思考を思わせます。
複雑な症例を解き明かすカルテのように、物語も冷静かつ分析的な視点で書かれています。

次々と厳しい現実に直面し、傷つき、過ちを犯し、以前の自分たちではいられなくなる少年たち。
それでも彼らは、自分たちの力で真実を掴もうとします。
そこに、困難な時代を生きる人間の強さを感じます。

現役医師による医療ミステリとしての面白さはもちろん、追い詰められた状況で変化していく少年たちの心の動きをよく書ききった作品です。

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