海軍兵学校に集まった「例外」の5人組、遠い時代に生きた彼らにも青春があり、友情があり、そして隠された謎と残酷な運命が待ち受けていた。
昭和十三年という遠い過去に生きた彼らの、しかし揺れる水面のようにキラキラ輝く少年たちが成長していく過程が美しく鮮明に、そして時には残酷に詳細に描かれていました。
彼らの友情がとても眩しく、しかし話が進むにつれて彼らの姿は研ぎ澄まされて、ゾッとするほど冷たく立派に成長していきます。大人でも子供でもなかった彼らが、傷つき傷つけられ変わっていく姿があまりに細やかに描写されて、はっと息を呑んでしまいます。
海軍兵学校にいた彼らの命の輝きに目が奪われる、儚くも強烈な胸に刺さる青春ミステリーでした。
歴女な作者様の手掛けた作品だけあって、知識が深く、その時代と海軍の学校という特殊な空間の雰囲気がリアリティをもって伝わってきます。
しかも、作者さんは現役のお医者さんでもあるのですが、随所でその医学的な見識がミステリー部分に活かされているのが感じ取れます。
……という風に説明すると、専門知識がたくさん出てきて難しい話かと思われるかもしれませんが、大丈夫です。
テンポも良く、文章力に優れているので、とても読みやすいです。
専門的な知識についても、その時々で軽く分かりやすい説明があるので、読みながらちょっとした雑学が増えるのもこの話の醍醐味かも知れません。
主人公はまだ10代。同じ部屋の生徒達と友情を深めながら自分たちの立ち位置を知っていきます。
若い男の子達の青春ドラマとしても楽しめます。男同士の友情って良いですよね!
ちなみに、教師達は大人な男性ですが、そちらにも魅力的なキャラが出てきます。
特に英語教師は魅力ある大人の男性キャラとして完成されきっています。
余裕があって、少し怪しい大人な男性キャラが好きな人は是非とも読んでください。
理解してるかしてないかも不明だったメロいって奴を知りました。
メロいです。
ちょっとカッコつけ過ぎくらいのキャラが昔から好きでして……自分もそう!っていう女性は本当に読んでみて欲しいです。
女が好きなキャラがどんなもんか気になった男性も是非是非どうぞ!
日本が戦争へと向かう、昭和十三年の海軍兵学校。
広島県の江田島にあるエリート養成機関で、主人公の中山由樹は、なぜか五人だけが集められた「隔離部屋」での生活を送っています。
華族の家に生まれた彼が、この特殊な環境に疑問を抱くところから、物語は始まります。
明るい馬場、無口で射撃の腕がいい下、元軍医という経歴を持つ年長者の見林。
そして水泳の天才であった亀嶋がプールで死んだことから、物語はミステリの世界へと突入します。
彼の死をきっかけに、平穏な日常に隠されていた秘密が明らかになり、彼らは後戻りのできない状況に引き込まれます。
亀嶋の死の真相を追う過程で、見林が仲間の証言や日記の記述といった情報からインスリンの過剰投与という仮説を組み立てる場面は、医師が診断を下す思考を思わせます。
複雑な症例を解き明かすカルテのように、物語も冷静かつ分析的な視点で書かれています。
次々と厳しい現実に直面し、傷つき、過ちを犯し、以前の自分たちではいられなくなる少年たち。
それでも彼らは、自分たちの力で真実を掴もうとします。
そこに、困難な時代を生きる人間の強さを感じます。
現役医師による医療ミステリとしての面白さはもちろん、追い詰められた状況で変化していく少年たちの心の動きをよく書ききった作品です。
『わだつみに抱かれて』は、太平洋戦争という苛烈な現実の中で、それでもなお真心を咲かせようとする若者たちの物語です。ユキたち候補生が見上げる空、見つめる海――それらは美しく、けれどどこか哀しくて、読む私たちの胸にも、静かに波紋を広げていきます。
英語漬けの実習の中で交わされる笑い声、弥山の登山道で夢を語り合うひととき。ほんの束の間でも「個」として息をつく彼らの姿が、とても愛おしく映ります。そして、船上で手渡されたロケットペンダント。その小さな銀の記憶が呼び起こす、言葉にできない痛み――あの場面は今も心に残っています。
理不尽な時代にあっても、信じるものを手放さずに、自分の誇りを探そうとする彼ら。その姿は、今を生きる私たちにもそっと語りかけてくれます。どうかこの物語の静かな祈りが、あなたの心にも届きますように。
あらすじについては作品紹介にお任せして、ここでは読後の印象を綴りたいと思います。
まず、本当に読みやすい。
私にとっての読みやすさは、戻り読みしなくても内容が頭に入ってくることと、覚えようとしなくても名前で誰かわかるようになることで、本作はその点スルスル読んでいけました。
物語は、少年たちの等身大の日常で始まり、突然の悲劇でその色を変えていきます。
一体何が?と読み進めた先に明かされる真実(?)も、「なるほど」と膝を打ちたくなる納得感。
本作の舞台は海軍兵学校という訓練施設ですが、閉ざされた環境での少年の青春ドラマという点で、雰囲気は少し「RAINBOW -二舎六房の七人-」に近いものを感じました。
でも、私は初めから仲の良い雰囲気の本作の方が好みです。
お話は新章に入り、新しい人物の登場や少年たちを取り巻く状況の変化に、嵐の前の静けさといった様子。
大人としての将来からはまだ遠く想像もつかない少年たちに、きっと一筋縄ではいかない未来が待っているのではと思いますが、このお話の結末が彼らにとっていくらか幸福なものであることを願って読み進めています。