産油国の夜戯
白川津 中々
◾️
一回二百万という高額につれられ、私は、私を産油国の王子に売った。
「皆様お待たせいたしました。遥々日本からやってまいりました少女が本日、挑戦者として夜戯に挑みます」
ご丁寧に日本語でのアナウンス。これは私達向けに流しているのだ。
「対するは同じく日本人。三ヶ月間、夜戯で闘い連勝を重ね、名を与えられた女闘士。彼女は二本のナイフを巧みに扱うことからこう名付けられました。ファルサ・アルナビ!」
歓声とともに現れる、美しいドレスを着た日本の女性。顕になっている傷だらけの肌と、両手に持ったナイフ。そして、人殺しの目が、私の臓腑を凍らせた。
「挑戦者が選んだ武器はアックス。攻撃力はありますが、その華奢な腕で扱い切れるのか。ファルサ・アルナビのナイフを回潜れるのか」
武器を使っていい。
そう言われ、私は斧を選んだ。理由はとくにない。ただ、しっくりきたから。この斧なら、私は人を殺せると思った。
飛行機に乗り、王子の寝室に通された私は違法な格闘イベント、"夜戯"に参加させられることとなった。勝てば二百万。負ければ死。逃げ出すことでもできず夜戯の舞台にたった私はもう、戦うしかなかった。
「さぁ、両者、舞台の中央へ到着。闘争開始のカウントダウンがはじまる! 五、四、三……」
肌がひりついていた。
心臓が高鳴り、血が熱かった。
恐怖は確かに感じでいたけれど、それ以上に、私は戦いに興奮していたように思う。充足感のない毎日。身体と若さを売ってお金を稼ぐ空虚な現実から解き放たれることに、喜んでいた。私は初めて立つ殺し合いの場に、夜戯に、居場所を見つけたのだ。
「二、一……!」
大きな音が弾けた。それが戦いの合図。
……殺す!
純粋な殺意。心の中は、それだけ。
私の新たな人生は、こうして幕を開けたのだった。
産油国の夜戯 白川津 中々 @taka1212384
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