『難しい人』の意味──母親について

宇治ヤマト

『難しい人』の意味──母親について

 このお話は、以前書いた『初めてのステーキと、ちょっとしたお話』の続きとなります。


 私小説であり、つまらない話ですので、読むのは、きっと物好きな方でしょう。


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 社会人になって、数年経った頃の事だ。


 瞳さん(仮称)とは、その後も交流はあったが、俺は敢えて母親の話はしない事にしていた。

 巻き込むことで、俺と瞳さんとの関係が拗れるのを避けたかったからだ。



 瞳さんは、俺の本当の母親が『難しい人』だと、言っていた。

 それ以来、どうにも気になっていた。


 何が、どう難しいのだろう?




 本当の母親について、自分なりに調べてみた。


 家にあるものには、母親の痕跡となるものがまるで無い。昔のアルバムを引っ張り出しても、影すら伺えない……。

 ──徹底している。父親と、祖父母はそこまでしていたのだ。


 それならば、と市役所へ行き、戸籍謄本を調べる事にした。


 ──あった。名前、そして、当時の母親の住所も把握出来た。


 俺は、職場の地図帳で場所を特定した。


 ここから、だな。


 どうするか──?


 今も、ここに住んでいるとは限らない。恐らくは実家の住所だ。だが、誰かは住んでいる可能性がある。──行ってみよう。




 次の日曜日、昼下がりの時間帯に、俺は母親の実家と思われる住所地へ赴いた。


 ──あった。一軒家だ。そして、表札は母親の旧姓。


 かなり、緊張する。だが、ここまで来た。少しでも、情報が得られるならば……俺の人生の中で欠けた、パズルのピースを埋める事が出来るのならば、勇気を振り絞ろう。


 ──ピンポーン♪


 玄関のチャイムを押すと、やや間があってから中年の女性が出てきた。やや恰幅かよく、強面こわもてだ。まさか……この強面の方が、母さん……?


「どちらさん?」


 ハスキーな声で、その女性は聞いて来た。


「あの、宇治……ヤマトと申します。私の母の実家がこちらだと調べて、お伺いしました」


 ──! その瞬間、女性の顔色が変わった。


「ヤマ、ト……!  ……ここにゃあ、深月みづきはいないよ。顔は、修治にそっくりだが……中身は、深月似か──因果なもんだね」


 私ゃ、姉だよ──と、その女性は付け足して教えてくれた。


「母に、会いたいのですが、可能でしょうか?」


「う~ん……どうしても、かい?」


「出来ることであれば、お願いしたいのです」


「深月は……少し、難しい。精神的なものだ。それでも、会いたいのかい?」


「はい」


「連絡先を教えな? あまり期待するんじゃないよ」



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 ──それから、二週間程経ってからだ。

 母の姉から、俺の携帯に着信が入った。


「ヤマト、深月に相談して──会っても良いと、返事を貰った。次の日曜日に、私の家に来な。

だだしだ、アンタもショックを受けるだろうし、深月は……、今の段階でショックを受けている。相応の覚悟はして来な?」


「わかりました」


 ──ショック、か……。


 生き別れて、二十数年の息子に会うのだから、ショックなのだろうか?



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 約束の日、約束の時間となり、母親の実家──今は、母親の姉が住んでいる家へと向かった。


 ……どんな人、なんだろう? 一目で、自分の母親だとわかる物なのだろうか? あるいは、全く違う感情が涌き出てくる物なのか……、想像が付かない。



 母の姉の家に着くと、玄関口で姉が待っていた。


「よく来た。深月は奥の部屋で待ってる。上がりな」


 お邪魔致します、と家に上げさせて貰った。


 奥の部屋へと向かい、姉が戸襖を開けると──正座をして、一人の女性が待っていた。


 この人が……、俺の母さん?


 その女性は線が細く、それよりも感じたのは、精神の繊細さ、だった。恐らくは……精神を病んでいる。初対面だが、なぜか、そこまで読み取れた。


 ──なるほど、母の姉の言っていた「中身は深月似だな」の意味が解った。俺も、明らかに血を引いている。


 その女性は俺を見て、一礼してから泣き崩れた。


 !── どう、すればいいのだ……?


「アンタら、抱き合いな」と、母の姉は言ったが、俺の中の何かが【触れてはいけない】と言っている様な気がして、手に触れる事すら──出来なかった。



 その後、母が落ち着くまで待ち、いろいろと話を聞いた。


 現在は再婚されていて、旦那さんの連れ子(息子)と、今の旦那さんとの間の娘さんがいるとの事だ。


 俺の父親と別れた経緯は、複雑多岐に渡っている様で、何が一番の原因だったのかは解らないが、俺の出産を機に、二人の関係は冷えきった物になったらしい。

 ──なんで産んだんだよ、と俺は思った。


 幾つか、俺の知らない情報を入手出来た。副産物ではあったが、俺の実家の闇を垣間見た。


 ── 一時間程して、俺は帰る事となったが、別れ際に母に言われた事が心に残っている。


「今の息子(旦那さんの連れ子)を、本当の息子だと思っている。だから、貴方の事は息子としては見れない」──と。


「そうですか──。わかりました。お元気で」


 そう言って、俺は母の姉にもお礼を伝えて、帰る事となった。




 帰りの車を運転しながら考えた。


「『今の息子を本当の息子だと思っている』って、俺に言わなくても良かったんじゃないのか……?」


 俺の人生の中で欠けた、パズルのピースは嵌まったが、どこか陰鬱とした、やりきれないピースであった。


 だが、知らないままよりは──良かったのかも知れない。、俺の現実だ。


 義母にも、息子として見て貰えない(ハッキリと言われているし、その様な対応をされている)、実の母からも、言われなくても良い様な事も言われて──


 当時の俺は『よくよく家族に縁が無いな』と、考えていた。







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『難しい人』の意味──母親について 宇治ヤマト @abineneko7777

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