いたづらに咲いて散って余話【あとがきに代えて】

「いたづらに咲いて散って」をお読み頂きありがとうございます。



6月から連載を開始し、ようやく完結させることができた。

初の長期連載作品であっただけに、大きな達成感を覚えている。


僕が小説を書こうと思ったきっかけは、数年前に夏目漱石の享年を超えたことにある。

日本文学史上屈指の作家が、自身より若くして大きなな業績を残しているのに、僕は何1つ作品を形にできていない。

その事実に強い危機感を抱いた。

そこで小説を書こうと決意し、本作「いたづらに咲いて散って」の原型を書き始めたのだが、当時は未完成のまま眠らせてしまっていた。

それを今年になって、改めて完成させようと決意したのである。



小説の舞台を高校にしたのは、20年以上教員を続けてきて、一番良く知っている場所であるからだ。

また、国語教師として生徒に伝えようとしてきた“国語の面白さ”も読者に届けたい。

そこで、現代の高校生が古典文学の世界へ入り込むという構想に至った。

主人公・小野おのえみが幻想を通じて平安時代を旅する設定を取り入れたことで、彼女は僕の想像外の行動を取り始め、物語がひとりでに動き出すこととなった。



平安時代パートの主人公を小野小町にしたのは、僕自身が好きな歌人だったからである。

彼女の和歌はどこか切なく悲しい響きがある。

その理由を主人公・笑と共に解き明かしてみたくなった。

作中では「小野小町=男性」説を取り上げたが、僕自身がそれを信じているわけではない。

むしろ「美女は永遠」であって欲しいと願っている。

こういった奇抜な仮説を通じて、古典に新たな読みを提示できればという思いがあった。



ラストシーンで笑たちが小町の姿を見る場面は、当初は笑1人だけの予定だったが、最終的に素子もとこ圭一けいいちも加えることにした。

その結果、現代と平安時代が交差するという作品のテーマにふさわしいものになったと言える。

果たして彼女らが見た小町は本物なのかーーそれは読者に委ねたい。



物語には取り入れられなかったエピソードも多い。

小町が女性となった理由や家族との確執、在原業平、文屋康秀との関係。

喜撰きせん法師も物語に登場させられなかった。

これらはいずれ、スピンオフ作品として描いてみたい。 


タイトル「いたづらに咲いて散って」は、小野小町の代表作「花の色は移りにけりないたづらに⋯⋯」から取ったが、徒花のように咲いて散った小町の生涯を象徴しつつ、世を欺いた「悪戯」の意も込めている。



約3ヶ月、全13話というの規模ではあるが、連載を完結させられたこては大きな自身と財産になった。

引き続き、面白い小説を皆さんにお届けしたい。

次回は9月5日(金)、エブリスタに読み切り短編「マイ・ロンリネス・グッバイ・クラブ――あの夜に、また会える場所」を掲載する。

また、9月12日(金)からはカクヨムにて、「逆井先生の国語日和シリーズ」第2弾として、「羅生門の雨がやむまで――夢見る女子高生が見た『正義』の裏側」を連載する予定だ。


詳しい執筆経緯や制作の裏話については、noteに掲載した「完全版あとがき」をご覧いただきたい。


今後とも智沢蛸をよろしくお願いします。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いたづらに咲いて散って―夢見る女子高生が挑む小野小町の謎 彼はなぜ絶世の美女となったか〜逆井先生の国語日和〜 智沢蛸(さとざわ・たこる) @tako4949

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画