開けたら閉める
ボウガ
第1話
母は失敗を認めない人だった。厳格な家庭で育ち祖父は公務員で、母は、看護師をしていた。
開けたら閉めろ。
そういわれてたっけ。裕福な家に生まれて、母親は過干渉で友人さえ選別をした。父は無関心。
母親がはまっている新興宗教の関係で、風水とかが関係あるとか、ともかく開いてるものは全て閉じなければいけなかった。扉、タンス、キャップのボトル、全てそう。
心、しかし芸術の才能があって、まさか母親に芸術大学の受験を許されるとは思わなかったが。
ライバルと競い合い、結束を深める日々。あの時初めて、そして生涯で最後と思える自由をしった。
開けたら閉める。
誰かから心や感情のここからここまでがお前のスペースだという強要をされていた気がする。社会人になってからもそうだ。デザイナーをやる傍らで、個展を開いたりもした。漫画をかいたりも、でも学生時代のようにはうまくいかなかった。
そんな時、大学時代の友人と出会った。開けたら閉めろ。開かれた心、扉。
でも、青春のあのとき、すでに僕は有名な画家や展覧会に声をかけられていたけれど、自分が心を開いたと思っていたけれど、実際どうだったのか、覚えがないんだ。家に帰ると憂鬱になり、記憶がない。
開ける、閉める。母親が死んだのと、自分の能力が評価されたのはどちらが先だったっけ。
開けたら閉める。
タンスが開いているのをみた。今は一人暮らし、母親がいるわけもなく、父ともほとんど連絡を取らない。閉めるまでもないだろう。
妙なことだ。学生時代の友人と出会ってからそれまで順風満帆だったものが、全てうまくいかなくなった。ああそうだ。あの友人は母親ににていた。尻軽で、自分にはつめたく他の男に媚びを売る。母親は僕が小学生の頃に離婚、再婚をした。
閉める?何もかもうまくいかないならば、閉めてしまえばいい。
腐敗臭のする家、そんなわけはない。でもしっている、記憶はいつも腐敗している。母親の笑顔は、狂気の合図だ。腕の下で皮膚をつねるのが趣味。
開いていた。
タンスの中から母親がのぞいていた。僕は学生時代の僕の死体をそこに投げ込んだ。そして閉じた。
また順風満帆な生活に戻った。ああそうか。母親が死んだから、学生時代の友人がなくなったから、だからうまくいったんだ。学生時代の個展も、今日この日の個展も、ここまで地味な自分が頑張れるのも、開けて、閉めたからだった。
記憶を閉じる必要はあるけど、記憶は腐っているから、閉じなければいけない。
開けたら閉める ボウガ @yumieimaru
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