第24話 指名手配とアイス④
光輝から話を聞いて、父親の福田大輝は自身の所属する県警の担当課に連絡を入れた。担当課の刑事は、まず不動産屋にそのマンションの六〇四号室の借り主を確認した。借り主は、高田麻衣。八村が女と同居しているという情報を裏付けるものだった。
部屋を訪れた刑事は、八村が逃亡を試みたり、女を人質に立てこもったりすることを懸念して、まず同居している女を部屋の外に誘導して保護した。
「こちらに、八村昌一という方がお住まいですね」
「‥‥‥はち、むら?いえ、そんな人はいませんが」
「そうですか、ですが、こんな男がいませんか」
係員は、八村の指名手配写真を女に見せた。
「‥‥‥指名手配⁈ え?でも、こんな顔じゃ‥‥‥、あっ!」
「どうですか?」
「鼻と口は、そっくりですが、目が‥‥‥」
「この男は、今、いるのですか」
「はい」
係員は部屋に踏み込み、指名手配犯、八村昌一を確保した。
◇◆
「麻衣さんは、八村が指名手配犯だという事を全く知らなかったから、罪には問われなかったのね」
詩織はホッとしたようだ。
八村と同居していた麻衣には、当然犯人隠匿罪の嫌疑がかけられた。取り調べ室での様子は、麻衣の側について(憑いて)いた俊子から聞いた。
麻衣には両親から捜索願いが出ており、警察は、彼女が連絡を絶った経緯を訊ねた。
「ホストクラブって所にほんの好奇心で入ったら、とても優しくされて‥‥‥」
麻衣は、美容学校に通っている間に一人のホストにハマり、多額のお金を注ぎ込んでしまった。ウブな田舎者の麻衣には優しいホストの甘い言葉は心を溶かす魅惑的なものだった。
「好きだと言われて、ナンバーワンになれたら恋人にしてくれるって。将来の事も約束してくれるって」
涙ながらに身の上を語る麻衣。そばにいる俊子は孫が不憫でたまらなかった。
親からの仕送りも、アルバイトで稼いだ金も全部使い果たし、お金を作るために学校も中退してキャバクラ嬢に身を
全て、ホストとその後ろにいるヤクザに仕組まれた事だと気づいた時には、もう取り返しのつかない事態にまで堕ちてしまっていた。多額の借金を背負い、ソープに売られホストにも捨てられて、親に顔向けできない麻衣は、連絡を絶った。
そんな時、八村と知り合った。自分を語らず、影を纏って掴みどころのない彼に強く惹かれた。家を出て来たという彼に、共感を覚えたのかも知れない。半年ほど前のことだ。
自分のマンションに住まわせ、そのうち男女の関係になった。彼が指名手配犯だとは微塵も疑わなかった。八村は、麻衣と出会った時には既に二重瞼に整形していた。
「そのホストとホストクラブは、違法な営業をしていたのでしょう。罪には問われないのかしら」
詩織は、俊子の霊がメイに語った麻衣の境遇に同情し涙ぐんでいた。
「それは、これからの話だ。麻衣さんの訴えがあれば警察は動くだろう」
アランが、詩織の肩を抱いて慰めている。
「北海道に帰ったんだろ」
アランと詩織のイチャイチャを横目に見ながら、メイのコーラに手を伸ばすレイ。
「あたしのだからそれ。自分で持って来なさいよ」
レイの手をメイが払った。
「ケチ!」
仕方なくレイは立って冷蔵庫からコーラを取ってくる。
「あんた光輝くんに、あたしがアイスを譲らないって言ったんだって?」
「ほんとのことじゃん、いつだって俺に何か譲ったことがあったか⁈ 光輝は、妹や弟に譲るんだってさ! よく出来た兄貴だよな!」
「もっと可愛くって素直な弟なら、あたしだって譲るわ!それに同い年なんですけど」
「ふん!都合の悪い時は同い年だ。普段はお姉ちゃんぶってるくせに!‥‥‥オイ、そこ!いつまでイチャイチャしてんだよ!」
詩織を慰めていたアランは、いつの間にかしっかり抱きしめ髪を撫で頬にキスをしていた。
「もう、きょうだい喧嘩は終わったのかい?」
名残惜しそうに詩織を離して、アランは冷めてしまった紅茶のカップを口に運んだ。
「麻衣さんは、お父さんに会えたのね」
いつものきょうだい喧嘩を無視して詩織は話を変えた。
「うん、その後俊子おばあちゃんの存在が消えたわ。とても感謝してた」
一旦メイに降ろされた霊魂は、成仏するまで頭の中でメイと話すことが出来る。
「でもお父さんの余命は、あと数日だろうって。麻衣さんはずっと病室に泊まり込んでいるようよ」
「俊子さんの望みは、お父さんが死ぬ前に麻衣に会わせたいという事だったからな。今回は、指名手配犯も捕まったし、レイとメイのおかげで二つの霊魂が救われたんだ」
「二つで思い出したけど、アイスはいつも必ず二個入れてたはずなんだけど、なんで一個しかなかったんでしょうね。不思議だわ」
詩織は、本当に不思議がっているようだ。
「作り話だからだよ、全部! 」
「こいつ、作り話であたしを悪者にしたのよ、酷いでしょ」
「ああ、もう!るっせーな!」
コップに注いだコーラを一気に飲み干し、流しで洗ってからレイは二階に上がった。
「褒められると照れていなくなるな、レイは」
「でもちゃんとコップを洗って行ったわね」
アランと詩織は、再び肩を寄せ合った。
メイも自分のコップを洗って二階に上がって行った。
指名手配とアイス 了
あとがき:
二千二十二年六月二十九日、大分県別府市の県道で発生した死亡轢き逃げ事件の容疑者である
この作品は、まもなく締め切りになる第一回GAウェブコンテストに応募する為、一旦完結します。ご了承のほどよろしくお願いします。
メイとレイの幽霊限定お悩み相談 七月七日 @fuzukinanoka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます