心配性のママ

レッドハーブ

心配性のママ

「いってきます!」

「車に気を付けるのよ!知らない人にはついていかないのよ!落ちてるものを食べちゃダメよ!えっと、それから…」

「わかってるわかってる!」


娘が元気に出ていった。

わたしも出社の準備をする。

ふと台所には娘の日記が置いてあった。

No.3と書いてある。


(忘れものかしら?)


私には少し負い目があった。

仕事中心の生活で娘は夫といることが多い。

つまり、娘について知らないことが多々あった。


(パパが自営業だからって、育児の押し付けは良くないわね…。これじゃ、母親失格だわ)


娘について良く、知らなきゃいけない…。

悪いと思いつつ、日記帳を開いてしまった。


【◯月✕日】

「上手になったな〜」

という、お父さんの言葉が、うれしかった。さいしょはよく、わからなかったけど、お父さんが、やさしく手ほどきを、してくれたから、夜がんばれた。


(句読点が多いわね。…頑張れた?なにを?)


わたしは次のページをめくった。


【◯月△日】

お父さんは、とても上手で、いろんな角度から、私を攻めてきた。大好きな、お父さんだから、わたしもうれしくて、まいばん相手をした。「いろんな人とするのは勉強になるぞ」と言っていました。


(いろんな角度から攻めた?…毎晩相手をした?)


いろんな人とするのは勉強になる?

ま、まさか…!


【◯月□日】

今日は、眠たかった。さくばんはお父さんと、2人で時間を忘れて、夜中の2時まで、続けていたからです。でも、楽しかった。


(夜中まで!?娘になんてことを教えてるのよ!)


わたしは急遽きゅうきょ、会社に電話をして有給をもらい、

娘の帰りを待つことにした。


「ただいまぁ。…どうしたのママ?仕事は?」

「休んだわ、あなたのためにね…!」

「え?なに?お母さんコワい…」

「ちょっと2人で話をしましょう」


(パパはあとでジャーマンスープレックスとして…。まず、娘のケアをしないといけないわね。心のキズになってなければいいけど…)


リビングのソファに2人で座った。


「日記を読ませてもらったわ…」

「勝手に読んだの?ひどい!」

「ごめんなさい。でもね、パパと娘がこんなことをしちゃいけないのよ」

「そうなの?でも、パパがね、あたしが上手になると嬉しそうな顔をするの」

「心配いらないわ。パパの相手はママがするから」

「あの、その…言いにくいんだけど」

「なに?」

「パパがね、ママはあまり上手じゃないって」


ガーン!


私はあまりのショックに気絶しそうになった。


(そんなふうに思われてたの?ショックだわ…)


「ママ、大丈夫?」

「大丈夫よ。ちょっと眩暈めまいがしただけ」


私は気をとりなおして話を続けた。


「と、とにかく、パパとするのはダメなのよ!」

「じゃあ…学校の先生とするね!」

「それもダメよ!」

「え〜なんでぇ?」

「あのね、そういうのは…えっと…あなたが大人になって、好きな人とするものなのよ。そもそも先生とは…歳の差がありすぎるじゃない」


娘が首をかしげた。


「…え?将棋に年齢制限なんてあったっけ?」

「………え?……将棋?」

「うん、将棋。あのね、クラスのカッコいい男子が将棋を…してて…」

「………………………」

「ママ、なんの話だと思ったの?」

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心配性のママ レッドハーブ @Red-herb

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