第35話 とりあえず今はさようなら

「マヒト。落ち着きましたか」


「あぁ」


「ここも絶対安全とはいえません。村へ帰りましょう。飛べますか」


「大丈夫だと思う」


 俺はシウファに支えられるようにして帰路についた。


 目の前で人間が、魔族が、闘って命を落とす様が何度も脳裏をかすめた。これがこの世界の現実。


 俺の精神状態を考慮し、村の少し手前で飛行をやめ、少し歩いて帰ろうということになった。シウファは黙って俺の手をギュッと繋いでくれている。


「無責任だと解ってるけど、俺は闘って誰も命を落として欲しくない・・・・・・」


 自分で言っても言葉が軽く、上すべりしていることがわかる。


「魔族は人間を殺し、人間が魔族を殺す。これはわたし達魔族、それに人間においても連綿と受け継がれてきた事実。それを止めることが出来るかは・・・・・・」


「不可能かもね。でも、両方の血を持つ俺は何か行動を起こしたいんだ」


「わたしにはマヒトが考えていることは今はまだ理解できない。でもこれだけは約束できます。わたしは何があってもマヒトの味方です」


 繋いだ手を握る力がお互い強くなる。


 林を抜け、シウファの家が見えるところまで来た時、名残惜しいが俺達は繋いだ手をどちらからともなく離した。


 家の中からノクスとネクタが飛び出して来る。


「姉ちゃん」


「姉様」


「「お客さんが来てるよ」」


 ノクスとネクタはシウファの手を取り、急かすように家の中に消えていく。


 俺もその後に続いた。


 中に入ると、見知らぬ魔族が椅子から立ち上がる。着ている服装から魔法書士であることが分かった。


「マヒト様。アルトス様の命により御迎え上がりました。御支度を御願い致します」


 シウファが「分かりました」と答える。


「「えぇぇぇぇぇ」」とノクスとネクタが、シウファの腰元にしがみつく。


 シウファは「またすぐ帰って来るからね」と二人を抱きしめた。


「「マヒトもまた来る」」


「・・・・・・。あぁ。また来るよ」


「「今度は一緒に飛んで遊びに行こうね」」


「「もちろん」」俺とシウファは答え、ノクスとネクタの頭を撫でた。


 世話になった村の者達に挨拶をしたかったがそれは許されず、カイラムとヴェリダに手短にお礼を言う。


「また来いよ。マヒト。今度はシウファの婚約者としてな。ガハガハガハ」とカイラムは笑った。


「またあなたったらそんなこと言って。マヒトさん。いつでもいらっしゃい。美味しい手料理を作ってまってるから」


 ヴェリダはそう言って手を握る。


 俺の手の中に小さな革製の袋を握らせ、「持っておいて、いつか役に立つかも知れないから」とアルトスがやったように、直接脳に語りかけられた。


 俺は誰にも気付かれないように、その革袋をポケットにしまう。


「じゃあまた」


「「またね」」とノクスとネクタは名残惜しそうに手を振る。


「参りましょう」


 魔法書士の先導のもと、俺とシウファは魔王城へ向けて飛び立った。

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このたび魔王を相続しました。 もンち @SAIKAZAKING

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