遊戯の館

ネコの額ほど度量が狭い

遊戯の館

ズッリュ、ズッリュ、ボキッ


嫌な音を立てる、足首を引きずりながら、這うように、俺は出口を目指した。


『なんでこんな事になったんだ』今は後悔しかなかった。


その日、いつものように昼間から飲み屋に入り浸っている。俺達はある噂を耳にした。


“旧市街地にある洋館に大量の現金が有るらしい”


現金、その言葉だけで、酒が旨く感じられた。


その夜、5人の仲間と噂の洋館に忍び込んだ。俺達は屋敷中を探し回り、大きな金庫を見つけた。


『ラッキー』


俺達は一様に喜び、金庫の解錠に取りかかった。意外なことに金庫は簡単に開いた。


そこに現金は無く、一枚の紙が置かれてあった。


“この屋敷を無事に出れれば、望みの物を授けよう”


「なんだこれ、イタズラか」

口々に、話を持ってきた仲間を罵った。


「帰ろうぜ」

リーダー格の男がそう言うと、皆は出口のドアに向かい、1人がドアノブに手をかけた。


バチンと言う、凄い音がし、ドアノブに手をかけた男が倒れた。


見ると、男は目から血を流し、脳を焼かれて死んでいた。


俺達はパニックを起こし、その場にへたり込んでしまった。


『なんだ、これは』


俺は動けなくなると、リーダーを見つめた。


決心したのか、リーダーは大きなバールでドアごと破壊した。


なんとか、金庫室を出た。俺達は元来た通路を戻ることにした。


先頭を行く男の足元が、急に崩れて、男は巨大な水槽に落ちた。

男は手足をバタつかせながら、叫んだ

「助けてくれ。俺は泳げないんだよ」

だが、誰も手を貸す者は居なかった。見る間に、男は水の中に沈んで行った。


こうなっては、普段悪ぶっていても、ただのガキである。

俺達はどうすることも出来ずにいた。


俺達は誰かが仕掛けた遊戯ゲームに引きずり込まれたのだった。


その無慈悲なゲームは恐怖をまき散らすように、確実に俺達を追い込んで行った。


残ったのは、リーダーを含めて3人。3人は見たことのない部屋に足を踏み入れた。


「なんとしてもこの屋敷を出るんだ」

リーダーはそう口にするが、3人ともパニックで、冷静な判断など出来るはずが無い。


そこに機械音のような声が聞こえてきた。


【ガンバリナサイ。モウスグ、デグチダヨ】


【コノナカニ、ウソツキガイル。ウソツキヲミツケテ、コロシナサイ】


リーダーは何か思い当たるのか、屋敷の話しを持ってきた男に詰め寄った。


「お前、何か知ってるんじゃないか?」

そう言うと、懐から拳銃を取り出し、男の額に拳銃を押し当てた。


「俺じゃない、本当だ。信じてくれよ」


だが、リーダーは止まらなかった。

引き金に力を込めると、男の額を打ち抜いた。


崩れる男が合図のように、変なん匂いが部屋に充満し、リーダーと俺は意識を失った。


気がつくと、そこは先ほどの部屋だが、一つ違うのは、俺とリーダーの足首が鎖で繋がれていることであった。

鎖は肉に食い込み、手で解くことは出来なかった。


2人の間には、大きなノコギリが落ちていた。


屋敷の主がなにを考えているのか、すぐに気がついた。


2人は争うように、ノコギリを取ろうとした。


リーダーの一瞬の隙をついた。俺は、ノコギリを手にすると、一気にノコギリを引いた。


肉を削く、嫌な音とリーダーの悲鳴が部屋に響いた。


『やらなければやられる』


そう思った。俺は力一杯ノコギリを引いた。


血だらけの俺は、鎖に繋がれた。リーダーの足首を引きずりながら、出口を目指した。


見覚えのある。扉に辿り着いた。


“生きている” “大金は俺の物だ”


そう思っている、俺に誰かが、後ろから声を掛けてきた。


「君で最後だね」


振り返ると、そこには水槽に沈んだはずの男が立っていた。


「僕は君たちが嫌いだったんだ」


そう言うと、男は俺の首筋に注射を打ち込んだ。


そこには楽しそうな笑みを浮かべる男の顔があった。


それが、俺が見た最後の光景であった。


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遊戯の館 ネコの額ほど度量が狭い @inoyan69

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