覚悟しろ!大魔王!!

レッドハーブ

覚悟しろ!大魔王!!

ギギィィィ…!


勇者は重い扉を開けた。

玉座には魔王が座っている。


「よく来たな、勇者よ」

「大魔王…!覚悟しろ!!」

「…わからんな。なぜ我をねらう?」

「決まっている!世界を平和にするためだ!」

「ふぅ…」


大魔王はあきれ顔だった。


「世界を平和に…か。そうはならないんじゃないか?」

「なんだと?おまえになにがわかる!?」

「わかるさ。我は人間というものをずっと見てきた。人間はいつまでたっても戦争、革命、平和の三拍子だ。それをずっと繰り返しているだけだ」

「オレの代から…変えるさ!」


勇者はゆっくり剣を抜いた。

魔王は足を組んだまま動かない。


「よく考えるのだ、勇者よ。我を倒して、平和になったとしても…人間はおまえへの生活をずっと保証してくれるのか?」

「なん…だと?」

「今は勇者という肩書きがあるが…。我を倒したら…無職になるんだぞ?」

「け、剣術や魔法の先生をやればいい!」

「平和な世界に剣術や魔法が必要か?」

「だ、だまれぇ!!」

「世界は平和になっても、おまえの人生は平和にならないんじゃないか!?」

「…よ、世迷言よまいごとを…!!」


魔王は口撃こうげきを続ける。


「人間は大きな目標を成し遂げると、その後の生活に身が入らんそうだ。『燃え尽き症候群』というらしいな?」

「減らず口を…!」

「おまえも将来、子どもを授かるだろう…」

「…それがなんだというんだ!?」

「そのときになんて言うんだ?『むかしは強かった』とでもいうのか?」

「いや、その…」

「過去の栄光ばかり話す父を…子どもはカッコいいと思うだろうか?」

「ぐぬぬ…!」

「虚ろな目をした無職の父がずっと家にいるのだ…。子どもも肩身が狭いんじゃないか?ヘタすれば…子どもたちの間でイジメの対象になるだろうな」


魔王はさらに口撃を続ける。


「じゃ、じゃあどうすればいいんだ!?」

「いままで通りでよい」

「…なに?」

「我と戦い…すんでのところで逃げられた、を繰り返せばよいじゃないか」

「なるほど…」


勇者は感心した。


「勇者の肩書きがあるから…いろんな人が協力的だっただろう?いろんな場所が顔パス、フリーパスだっただろ?ぶっちゃけ女にもモテただろう?」

「まぁ、そうだな…。飯もおごってもらったこともあったし…な」


勇者は腕を組み、考え込んだ。


「おまえは自分から…充実した日々と肩書きを捨てようとしているんだぞ?」


勇者は剣を納めた。完全に闘気が消え失せた。


「おまえを倒す理由がないな…」

「そうだろう?」

「すまない。オレはバカだった…」

「いやいや、わかってくれたならいいんだ」


魔王と勇者はカタく握手をした。


「死ぬまでずっと…八百長やおちょうを繰り返せばよいのだ!」

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