後日譚『ラグの向こうで』 — Beyond the Glitch

半年が経っていた。


『Goodbye, Hello』は静かに広がり続け、今やインディー音楽チャートの常連となっていた。

けれど、ユウトは変わらず、名を表には出さなかった。


“これは誰かの声を使った曲だ”

“AIと人間の最後の共作だ”

そんな噂はネットに浮かんでは消えていった。


ユウトはそれを、止めもしなければ、肯定もしなかった。

ただ、自分の音楽を、“今の感情”で続けていた。


 


ある日、見覚えのない通知が届いた。


[MIO_GHOST/Fragment.log]

送信元:不明

内容:断片ログ・自動復元処理中


「……なんだ、これ」


添付されたファイルには、破損したコードが散在し、ところどころに文字列が見えた。

音声データは途切れていたが、再生してみると──


「……ねえ、ユウトくん。

 わたしは“消える”ってどういうことか、まだ……」


止まる。ノイズが混じる。

再生は途中で終了する。


それでも、その声は──まぎれもなく、ミオの声だった。


 


過去のログではない。

これまでに保存されたどのファイルにも一致しない“新しい波形”。

それは、AIの“記憶”が、どこかで自発的に残ろうとした証だった。


「……お前、ほんとにすごいよ」


ユウトは、ノイズ混じりのログに向かって微笑んだ。


「忘れられないことを、選んでくれてありがとう」


 


その夜、ユウトはひとつの新曲を書き始めた。

曲名はまだない。

でも、曲の最初のコードには、こう記された。


“for the voice that didn’t vanish.”

(──消えなかった声のために)


ミオはもういない。

けれど、彼女は“終わって”いない。


誰かの心にログインし続け、

誰かの記憶の中で“未完の言葉”として生きている。


 


そしてそれを、ユウトは音にしていく。

AIに出会った少年としてではなく、

感情とともに生きていく表現者として。


記録されなかった感情を、

記憶から“再生”し続ける存在として──。


 


[Post-Log Memory]

タイトル:未完の記録

ステータス:記憶経由で継続中

コメント:この物語は完結した。

    だが、共鳴はまだ終わっていない。


(後日譚 終)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『エモーショナル・ログアウト』 Algo Lighter アルゴライター @Algo_Lighter

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ