ミートボールの甘酢あんかけ
藤泉都理
ミートボールの甘酢あんかけ
大貴族、
巨大な肉団子が廊下に置かれていたのである。
正確に言えば、ミートボールの甘酢あんかけである。
廃棄すべきだと判断した日永がゴミ袋を広げて、清掃用トングで掴みにかかろうとしたのだが、あろう事か、ミートボールの甘酢あんかけが言葉を放ったのである。
「日永兄貴。おらと一緒に帰りましょう」
「おや、いけませんね。新種のミートボールの甘酢あんかけですか。ご主人様たちに危害が及んではいけません。即刻排除しなければ」
「いやいやいやいや! おらですよ! おら!
「寛? 誰でしょう? 過去を捨てた私にはとんと分かりませんね」
「いやいやいやいや! 分かるでしょう! ほら。弟分の寛ですよ! よく見てください!」
「よく見ようが見まいが、分かりません」
冷たく言い放った日永は瞬時に清掃用トングでミートボールの甘酢あんかけ、もとい、寛を掴んでゴミ袋に入れると、長い廊下を突き進んでは邸の外に出てゴミ捨て場に捨て去ったのであった。
「うう。兄貴。日永兄貴。おらが変わっちまったばっかりにおらが弟分の寛だって分からなくなっちまったんだな」
ひょろいのっぽだった寛は、筋肉をつけるにはとにかく動いて肉を食べる事だと親分に教わってから、寝る間も惜しんで動きまくっては肉を食べまくった結果、肉団子のようなまんまるい体形になってしまったのである。さらに茶色の服を身に着けていた為に、ミートボールの甘酢あんかけのように見えてしまったのであった。
「おらの昔話を聞かせればきっと日永兄貴もおらの事を思い出してくれるはずだ!」
寛は天高く片腕を掲げてはゴミ袋から脱出。
ダダッドダダッドダダッドンドン。
勢いよく駆け出しては日永の元へと突撃しに行ったのである。
「兄貴いいい! おらですよおら! 寛です! 雑草を見ると抜きまくりたくなっちまって庭にも勝手に入って不法侵入だってよく通報されていた寛です!」
「おやおや。不法侵入ミートボールの甘酢あんかけですか。即刻排除しなければ」
「兄貴いいい! おらですよおら! 寛です! 夜間に外出している子どもたちに声をかけてゲームを一緒に何日も徹夜でやって保護者に誘拐犯だってよく通報された寛です!」
「おやおや。誘拐ミートボールの甘酢あんかけですか。即刻排除しなければ」
「兄貴いいい! おらですよおら! 寛です! 金を貸してくれって言ってきたやつに金は貸せないが世話をしてやる事はできるって連れ帰って交番を無料宿所にしてよく親分に怒られちまった寛です!」
「おやおや。世話焼きミートボールの甘酢あんかけですか。即刻排除しなければ」
日永に突撃してはゴミ捨て場に持って行かれ続けた寛は、ゴミ捨て場の前で両膝と両の手を地面につけては、しくしくと泣き始めた。
「うう。警察手帳を見せながら突撃してるのに。兄貴はまだおらが寛だって信じてくれねえ。やっぱり外見って大切なんだな。でも。あんだけ一緒に行動してきたのにおらが寛だって分からねえって。そりゃあ、身長は縮んで身幅は伸びちまったけど。顔も胴体もパンパンに膨れちまったけど。そんでも。兄貴なら。おらだって分かってくれるって。警察官を辞めた兄貴を迎えに来たおらに感激して一緒に戻ろうって言ってくれると思ってたのに。うう。おら。おらは。おらはどうしたらいいんだ?」
「あらあら。可哀想に。泣いてしまっているじゃない。いいのよ。私は。あの子もうちの邸に来てもらっても」
大貴族五城川原家の主人である
「いいえ。私は過去を捨てて美奈様に仕える男になったのです。私の過去を知るあいつを迎え入れるわけにはいきません。そも、あいつと私の道は分かたれたのです。私はもう警察には戻らない。けれど、あいつは警察官であるべきなのです。私と違って、あいつはまだ警察に希望を見出しているのですから」
「………そう。私としてはあの子に執事になってもらったら嬉しかったけど。ふふ。一緒にお肉を食べてくれそうだし。あなた、私の食事に全然付き合ってくれないんだもの」
「申し訳ございません。何故か獣肉が受け付けない身体になってしまいまして。魚肉でしたらお付き合いできるのですが」
「あらあら。残念ね」
深紅の扇を華麗に畳んだ美奈は妖艶に笑っては、じゃああの子はもう追い出してもいいのねと、日永に尋ねた。
「ええ。お手数をおかけします。美奈様」
「いいのよ」
セットバックヒールを華麗に履きこなして去って行く美奈に深々と頭を下げたのち、日永に突撃せんと立ち上がる寛を目を細めて見つめたのであった。
(警察を変えてくださいね。寛)
(2025.5.6)
ミートボールの甘酢あんかけ 藤泉都理 @fujitori
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