第2話 未知に惹かれて振り回されて

「なぁなぁ、ここら辺って何があるの?」

高橋は子供のような透き通った目で2人に問いかけた

「知らんな。」

「知らないな。」

2人とも声を揃えて返事する。

すると、

「だが、それもまたいいじゃないか。好奇心がくすぐられる。」

西園寺の表情が不敵な笑みと不気味な雰囲気を醸す。

「俺もなんだか気になる。いや、気になっちゃうんだな。これが。」

水田も賛成の雰囲気だ。

「ほな、終業式終わってからこの辺歩き回るか?」

「いや、1回帰宅して準備させていただきます。制服は暑苦しい。もう夏だと言うのに。この夏の暑さの秘密もまたーーー。」

「うるせぇ。キリがねぇ。それ以上喋んな。」

水田がいい感じにツッコム。

「やだ、もうみっちゃんったら。そんなキツイ当たりして…………良い!やはり良い。それでこそみっちゃん!」

西園寺は小さく縦に頷く

「てめぇ、ええ加減しとけよ…。それに、みっちゃんって呼ぶのやめろ。」

眼鏡を2回クイックイッと上げて西園寺の方を見る。

「はい、はい、そこらへんにしときましょうや。どなたも得しませんで。」

高橋は二人の間に手を入れて制す。

「それに、またボコられてしまいでしょう?水田よ。体は労りなされよ。」

高橋は水田の額の傷を指さし伝える。

「チッ。」

西園寺は意外にも父親仕込みの格闘技の技を持つ。水田に比べて運動神経も持久力も優秀だ。

舌打ちと同時に眼鏡を指で弾く。

「とにかく、俺もそうしたい。」

水田は西園寺に賛成を表明する。

「決まりね。ほんならそういうことで。集合は?いつもんとこで?」

高橋が2人に問いかける。

「あぁ。」

「そうですね。」

異論は無い様子だ。

「そんじゃ、いつものベンチの前に。」

そして、3人はお互いの手首の外側を当てた。



ギラ着く太陽から差す日光は容赦なく地表に降り注ぐ。そして、小さい木々の間を貫通する。

そんな木々の中で1本密度が高い気が存在する。遮熱し、そこのベンチはとても涼しい。

「ミャー。」

涼しさを求めていつも1匹の猫が誰よりも早くベンチを占領する。

純白の白色を備えた育ちの良さそうな見た目。

そして、少し時間が経過した頃、

降り注ぐ日光と熱気から逃げるがごとく

木の下に駆け込んできたのは

高橋であった。

「あちぃ。あっ、またこの猫。」

どけと言わんばかりに猫の目を見つめる。

「ミャーミャー」

猫も負けじと目を逸らさない。また、持ち前のビジュアルと可愛い鳴き声を生かし、高橋を圧倒する。

「あぁ。分かったよ…今日は僕が負けだ。」

高橋は猫に向かってそう言い張るとベンチの横の地面に座る。

そんな会話をしている時に、

「今日も勝負してたのか。てか、お前そいつに勝ったことねぇだろうよ。何が今日"は"だよ。」

水田がツッコミを入れながら木の下に入る

そう、彼の言うとおり、今日「は」と表現する割に、高橋はこの猫に対しての勝率は今のところゼロパーセント。

この先もおそらく彼が彼女に勝つことは無いであろう。

その表現はプライドから来るものなのか、それとも彼の持ち合わせる少年らしさから来る純粋なものなのか。

「それもまたいい。種族を超えた愛。なんて興味深い。」

西園寺も少し遅れて到着する。

「えへへ」

高橋は子供のように、笑う。

それを水田が優しく撫でる。

「お前、相変わらず髪質凄いな。みずみずしいよな。」

まじまじと髪を感じる水田。

「それ多分汗なんじゃない。」

高橋がぼそっと言うと。

「うわぁっ。」

慌てて手を離す。

「あははは。嘘だよ。冗談じゃんか。ここに来るまでに汗なんかかいてない。」

「どつくぞ。」

「うへへへ。」

「しょうがないやつだ。子供っぽくて。」

水田は言葉に反して表情はいっそう笑顔だ。

「タチの悪い冗談で距離が離れたと思いきや、距離がより縮まっている…これは、面白いじゃないか。」

西園寺も、満面の笑みで変わらず楽しそうだ。


「それじゃあ、どこいくん?」

高橋が尋ねる。

「隣町まで歩こうぜ。違う地域にいくのもまた新鮮だと思うぜ。」

水田が意気揚々と提案する。

「私も異論ないです。」

「分かった。」

決めることは決めたので、早速歩を進めた。


「あの雲美味そうやなぁ。わたがしみたい。」

「いつまでそんなこと言ってんだ。まぁ、確かに綿菓子に見えないこともないけどさ。」

高橋と一緒に水田も空を仰ぐ。

「食感ってどんなんやろ。本当に綿菓子っぽいんかな?粘っこくて、でもすっと消えるような感じなんかな?美味しいんかな?」

そんな事をひたすら考える高橋は口元に人差し指を当てて、まさにアニメで見るようなポーズをする。

それに対して、西園寺は

「確かに、実際の雲は食べ心地がいいのか気になりますね〜。私の心をくすぐりますねぇ。」

西園寺は手で日光を遮りながら、空を見上げるそして眼鏡の位置をクィッと調整してから

「もしかしたら、"あめ"の味がするかもしれませんね!」

と見事な返しをする。

「えっ?ほんまに?やっぱり、甘い味がするんかな?そうなら、食べてみたいな〜」

幸せそうな顔の高橋をみて、水田は感じる。

こいつは弟みたいで可愛いいやつだな。と。

「やっぱりお前は私の弟です!」

そういって高橋の艶のある髪を撫でる。

それから、たわいも無い話をしながら

時間は過ぎていく。それと比例して見慣れた街並みから少しずつ寺内町のような雰囲気に変化していく。

「凄いな、これが文化の街と言われる場所か。目の前にすると…たまげたな。」

木造建築を見渡しながら水田が言う。

「確かにな〜、昔にタイムスリップしたみたい!」

「景観に合わせた木々も素敵だ。」

高橋と西園寺も同調する。

「ねぇ、これ見て!」

高橋が目の前の曲がり道を指さす

すると、2人も同じように覗いてみる。

そこには、「無変の道」とだけ書かれた看板が刺された道。

ただ、他とは違う。

コンクリートが使われていない土の道。

そして、道自体がグネグネとしている。

両サイドには溝がある。

「グネグネしてんだけど!それになんか、ここだけ他と違うんやけど!」

必死で訴えかける髙橋

「確かに、どうしてなんでしょう…これは心惹かれる歴史的な謎。知らない何かの為に。私の探究心がくすぐられる…」

興奮気味の西園寺

「ロマンを感じるぜ。」

ロマンを感じる男水田。

「誰かに、聞いたら分かるんかな?」

高橋が提案する。

「それもそうだな。」

水田も賛同する中、

「ちょっと待ってください!!!」

2人の肩を掴む西園寺

「なんだよ、どうした?」

水田が不審そうに西園寺の方を見つめる。

「ここまで来たんだ、時間もある。すぐに答えを貰ってもつまらなくないですか?」

西園寺は真剣な目をする。

「えぇ…ホンマに言うてる…?」

「…」

納得のいかない二人を見て。

「お願いです!私の研究心、探究心の為にも一緒に考えたい!」

西園寺は肩を握る力を強くする。

「この暑い中、何言ってんだか。」

「うーむ、僕も暑いし、何よりせっかくここまで来たからこそもっと色々なもの見て回りたいや。」

2人の表情は少し曇る。

「そうですか…」

西園寺は下を向く。

「分かりました。確かに、ただの押しつけでしたね。すみません。」

ボソッと2人に返事を返す。

「ただ、自分勝手で申し訳ないとも思うんだけど、このままだと私自身が納得出来そうにないので1人で考えます。」

西園寺は息を深く吸う。そして

「お2人は自由に回ってきてください!

私たちの影が今より斜めになった頃またここで落ち合いましょう。」

西園寺は顔を上げてこちらに向かって笑った。しかし、その笑顔は言うまでもなく出発時にみせたあの笑顔とは程遠いものであった。

「ほんまに?やったー!それじゃあ行こっか!」

本来なら、高橋のシンプルな言葉は淀みの無い言葉だと分かるはずであった。

俺は高橋の右手を掴みながら

「そんじゃあ、そういう事で。また後でな。」

西園寺に一言を伝えるとすぐ、振り返り高橋の手を引きながら走った。

彼の純粋さが裏目に出た瞬間だった。

それから、2つほど角を曲がり、ベンチに座った。

「疲れたな〜、いきなり走るからさ。びっくりしたやんか。」

高橋は水田に目をやりながら、汗を手持ちのタオルで拭く。

「お前さ、言葉の意味も考えて発言した方がいいぜ?」

「というと?」

「あいつの優しさに頼りすぎだ。」

しっかりと目を合わせて伝える。

しかし

その顔はよく分かっていないようだった。

「あいつは長男であり、兄貴だって事。」

「うーん。よく分からへんな。」

顎に手を当て考えてる素振りを見せる。

「それに、僕一人っ子やし。」

未熟なまま成長してきてしまったこの子に罪は無い。

だが、学もないし、誰かの兄でもない俺にはどうしようもできなかった。

それでも、いずれ、誰かが伝えないといけないと直感したので

「あいつの俺に対する時とお前に対する接し方や発言から何か気づかないのか?」

意地悪くも諦めたくなかったのでこの一言だけ残した。

「うむ。うむ。」

沈黙少し続いていると、

「どうしたんだい?」

いきなり背中を優しく叩かれる。

「うわぁ!」

2人は前にズッコケる。

「あらまぁ、ごめんなさいね。そんなに強くしたわけじゃなかったの。」

声の先を見ると、この街の景観に合わせたらしい羽織を纏った綺麗な女性が後ろに立っていた。

「いえいえ…」

疲れていて咄嗟に近くのベンチに縋り付いたせいで気づかなかったが、小さな建物の敷地にあるベンチに座っていたようだ

「すみません。勝手に敷地のベンチに座ってしまっていたこっちの責任です。」

「ごめんなさい。」

高橋も一緒に謝る。

「あらあら、謝らせるつもりもなかったのに…」

軽く苦笑いを見せる。

「ほらほら座って!」

そういいながら、俺たちの腕を引っ張り座らせる。

「お詫びに三色団子食べる?」

「えっ?」

戸惑いを見せる俺。

「本当に?」

嬉しそうな高橋

「ほれほれ。味見してみ?」

笑いながら三色団子2本を差し出す。

「いただきます!」

手を合わせて女性に見る。

「どうぞどうぞ。」

2人は1本ずつ串を持ち

その上にある桃色の1粒を口に入れる。

それは、革命的な味だった。

はっきりとした甘みが口に広がる。

もっちりとしつつもしつこくない程よい感触は最高だった。市販のものとはまるで違う。

俺たちの口の中は幸せで満たされた。

「美味しいですね!」

「本当に!口の中に桜が広がっているみたい。お花見ができそうや!」

高橋はお花見ではしゃぐ子供のような顔をする。

「そうでしょ〜。私も食べちゃおう。」

彼女は嬉しそうにこちらを眺めながら三色団子を口に入れる。

そして、3人は次々と三色団子を頬張る

そして、食べ終わると

「ご馳走様でした!」

「はいよ、お粗末さまでした!」

まるで母親と息子たちのような違和感の無いやり取りがそこには広がった。

「すみません、この辺にトイレってどこにあるか分かりますか?」

お腹を抑えながら、高橋が尋ねる。

「いいよいいよ、遠慮しないでうちのトイレ案内するから使いな。」

高橋は女性に連れられて行く。

そして、少しすると

「ねぇ、あんたあの子に何伝えようとしてたんだい?」

いきなり、戻ってきた彼女が肩にのしかかる。

その時、またあの嫌な光景が頭にぶり返した。

西園寺の切ない表情が頭に浮かぶ。

「いや、その…」

伝えるべきか否か。迷っていると

「悩みは今吐き出しときなはれ。いいたくなければ、無理にとは言わないけどさ。」

親のような暖かい言葉に

「あいつは純粋すぎるあまりに悪気なくもう1人のダチに毒を吐いた事。そいつは優しいからさ。無言で俺たちを見送った。

俺もあいつの優しさに甘えたし、尊重もしてやれなかった。これで本当にいいのかって。」

「なるほどね〜。人間ってメンドクサイもんね。」

彼女はあいずちを打つ。

「まぁ、相手の優しさに甘えることは悪いことじゃない。けど、いつまでも頼りすぎるのも良くない。 その事に、気づいているなら時に、相手を尊重する事も大事だと思う。」

彼女は僕に向けて真っ直ぐに思いを語る。

「ただ、あの子は多分何も気づいてない。 子供が両親の優しさ気づくこと、兄の気遣いや優しさに気づく事は難しい。けど、いずれにしても時間とともにそれに気づいてくるもん。焦らなくてもね。てか君たち、名前なんて言うの?」

「水田蒼太です。あいつが高橋連」

「高校生?」

「はい!」

「あの子も?」

敷地の方を指さしながら彼女が聞いてくる。

「はい。」

「まぁ、ちょっと遅れてる感じはあるけどね。けど、そういう子も実際いるし、卒業式までには、大人になってる事もあるし。はたまた、就職や大学入学後しばらくして久しぶりに会ったら自然とあの頃の"いはけなさ"は消えてる事もあるからね〜。」

彼女は斜め上を向いて昔を思い出す素振りをみせる。

「多分だけどね。結局は周りの人達だと思うよ。環境。」

そういいながら僕を指さす。

「えっ…」

突然指さされて困惑する。

「だ、か、ら!周りの人。君たちの事だよ。」

「あぁ、なるほど!」

やっと、理解し頷く。

「君たちは多分あの子の兄みたいな存在でしょ。」

「そうですね。」

彼女の発言に相槌を返す。

「特に、そのもう1人の友達ってのがさ長男、君が次男で、あの子が末っ子。」

彼女は 指を3つ折りこむ。

「だからさ、本当なら、君たちが自然とそ分かるように仕向けてあげなくちゃ。」

その時、自分の中での使命感が湧く。けれども、どこかはっきりとしない。不安が残る。

「どうすればいいのか分からないんです。

実際僕自身も一人っ子ですし。」

まっすぐ彼女を見つめる。

「うーむ。じゃあ、私がちょっと試してみよっかな。」

その一言を彼女が言うと、

「おーい。お待たせ!」

何事もないように椅子に座る。

「あら、おかえり。」

本当にこの人は母親みたいだ。出会ってまだ少ししか経ってないのに。

「ねぇねぇ、高橋くんさ、」

「はい…何ですか? えっ!?なんで知ってますねん。」

いきなり名前を呼ばれて焦る高橋

「あぁ、俺が聞かれて教えた。」

「あ、なるほどね!?」

納得の高橋

「もう三色団子1本食べたい?」

「うん!食べたい!」

「じゃあさ、仮にさっき、3人でここに来たとしよう。君はもう一本食べたい。その時、そのもう一人の子に三色団子をくれるように頼んだらくれると思う?」

お母さんが子に教える時のトーンで話す。

「うーむ。もしかしたら、くれるかもしれない。」

あやふやに高橋は回答する。

「どうして?」

「優しいから!」

元気よく答える。

「それじゃあ、もしこの…」

「水田です。」

「あぁ、そうそう、水田くんが西園寺くんに頼むのだったらどうなると思う?」

「うーむ。」

少し考え込むと。

「くれないかもしれない。、よく分からないけど。」

絞り出した様子の高橋

「じゃあ、どうしてそう思ったの?」

「なんか、水田と西園寺はたまに喧嘩してるから。」

「うーむ。なるほどね。」

「それと、もう1つね。君が水田くんに頼むとすると?」

俺は何を聞きたいんだろうと質問の意図を考える。そして多分、俺も上げてしまうだろう。

「もしかしたら…くれると思う。」

「どうして?」

「2人とも同じくらい優しいから!」

彼女は少し考える仕草をすると

「ならなんで、西園寺くんはどうして高橋くんに優しくするんだろう?」

先生のような口調で問いかける。

高橋はしばらく考える。

「分からへん。」

その一言だけ高橋は言った。

すると、彼女は

「そっか。」

それだけを言うと、

「まぁ、そのうちわかるようなるよ!きっと。」

また、あの包容力のある彼女に戻る。

「うん!」

高橋もまたいつも通りに戻る。

気づいたらもう夕暮れ。

「君たちどこから来たの?」

「隣町の方から。」

俺がずっと答える。

「あら、暗くなる前に急いで帰りなさいよ!ここら辺近くに駅もないから。」

「分かりました!」

「それじゃあ。」

サヨナラの挨拶とともに家に戻ろうとする彼女に

「あのひとついいですか?」

俺が一つ質問する

「名前聞いていいですか?」

「あぁ、私は桜木 美咲。ここで、三色団子を売ってるのよ。」

「なるほど!わかりました!ありがとうございます!」

俺がそういっとき、高橋が

「僕からもお願いをひとついいですか?」

「なぁに?」

「三色団子ひとつもらえますか?」

「あらら、はいよ。ちょっとお待ち。」

彼女は家に戻り、少しすると

「はいよ!」

三色団子の入っているであろう袋を持ってきた。

袋に三色団子を入れるのか…。小さい鼓じゃダメなのか?俺は疑問に思った。

高橋がポケットから財布を取り出す。

「お代はいいよ。これはサービス。私も楽しかったからね。美味しく食べてね。」

「ありがとうございます!さようなら!」

そういって、俺たちは走った

「やばい、だいぶ遅くなった。西園寺先帰ってないか?」

俺が言うと

「ほんまや!もうすぐ影が消えちゃうよ!」

俺たちはとにかく走った。

すると、

あの、「無変の道」の看板のそばで小さく丸まっている西園寺がいた。

「ごめん!遅れた!」

俺はすぐに謝る。

そして、少し遅れて

「ご、ごめん。」

と高橋も謝る。

すると、振り返って西園寺が

「いやいや、こちらこそごめん。勝手な真似をして。探究心だがなんとかいって。」

彼の話すテンションは比べ物にならないほど低かった。

「あれからさ、俺もちょっと反省してさ、色々考えちゃって、無変の道どころじゃなくなってさ。」

「こちらこそ、ごめんな。いつも合わせてもらっちゃってて。」

高橋は2人をただ、みつめる。

「いやいや、全然いいよ。こっちも楽しいし。」

言葉に説得力が無いほど、無理した雰囲気がにじみ出る。

「………」

少し沈黙が続いた時

「ねぇ、三色団子あげる!」

高橋が包みの中から、三色団子を取り出す。

「これを西園寺くんに。」

高橋は西園寺にひとつ差し出した。

「そして、これを水田くんに!」

俺は何も言わなかったが、

どうして二本あるのか困惑する。

ましてや、

「みんなで食べながら帰ろう?」

そう言うと、さらにもう一本を袋から取り出す。

「あぁ、ありがとう!」

「そうだな。食べよう。」

三色団子の1つ目を口にする。

そして、僕らは満開の桜に包まれた。

真夏の夜の月の下には、夜桜がゆさゆさと揺れている。

寺内町に点々と植えられた木々は花弁を揺らし、桃色の花びらが舞う道を三色団子を片手に彼らは歩く。

まるで、いつぞやの春の土の並木道を進む人々のように。

高橋という未知に囲まれた無垢な青年の

純粋な一言から始まった険悪な雰囲気が

彼の純粋な優しさによって春風のような温もりに包まれた。

「美味いな。こんなの初めてだ。」

目を丸くする西園寺。

「そうだな!」

「うん。」

彼らは最低限の会話をする。

そして、皆が余韻に浸る為の沈黙が続く。

そしてあの出発した木の下まで来て止まる。

その時、

「なんであの時三色団子をくれたんですか?」

西園寺は高橋に聞く。

そして、俺たちは黙る。

「最初はもう1回食べたいから買おうと思った。お姉さんに3本1セットで売ってるんだけどって言われた時ラッキーって思った。」

なんとも高橋らしい返答だ。

「ただ、西園寺くんのね。待つ姿はとても悲しそうに見えた。それと、ベンチで座る水田くんみたいに小さく見えた。そして、励ましたいと思った。でも、どうすればいいのかんから無くて。とにかく謝った。」

高橋のいつもの明るい様子とは何か違う。

「謝った時にね、たまたま腕にかけた袋の中の三本の三色団子が目に入ったの。その時、ふと思ったの。あの時の幸せな気分を共有したいと思ったの。そうすればきっと…」

高橋は俺らの目を見た。

「いつもごめんね。ありがとうね。」

ふつふつと体の芯から湧く温もりがじわじわと体の端まで染み渡る。

初めてだった。いつも俺たちの弟だった高橋が今だけは高校生…いや大人だった。

果てしないギャップを感じた。

俺たちはただ笑っていた。

高橋は少し恥じらい気味に笑っていた。

「お前の子供っぽい所は俺たちの幸せだ。こちらこそありがとう。」

西園寺は高橋の頭を撫でた。

その光景を見て、俺は焦りを覚えた。

そして遅れて、

「俺からもありがとう。」

とだけ口にして、俺も高橋の頭を撫でた。

その時、雨粒が一つ一つの落ちてきた。

「しばらくここで雨宿りだな。」

と俺は言った。

「そうですね。ちょうどいい。」

「うん。僕もまだ別れたくなかったし。」

2人が返事を返すと3人は木下に座った。

そして、雨が止むまで過去の思い出やら色々話しあった。

草に乗る露はとても透明で美しかった。

雨の降る空にははっきりと月が映っている。
















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溢れるくらいの青春を 猫羽 天音 @cat7fish3

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