12使徒
先日の戦いと同じく能力を解放した姿でミカエルは3体のネフィリムと睨み合っていた。
はっきり言ってしまえば、ミカエルにとってネフィリムが何体いようが変わらない。
かつての人間と天使達の戦争の時には、もっと多くの原初のネフィリムが戦場にうごめいていた。
その中でミカエルは先陣を切って戦う立場だったのだ。
今更、3体に囲まれたからと言ってなんだというのだ。
ミカエルは空へと跳躍し3体を上空から見下ろした。
ネフィリムは何とかミカエルに近づかんとするが、翼を持たないネフィリムに空中の戦いは不利だ。
跳んできた一体目の頭のてっぺんから股下まで剣を振り下ろし真っ二つにする。
臓物を撒き散らしながら落下する一体目の半身と半身の間から2体目が拳を振り上げながら迫ってくる。
ミカエルは2体目に向かって楯を投げつけると更に楯を蹴りこみながら高速で落下した。
ぐしゃりと音を立てて楯の下は血の海になった。
楯の下の巨人の腕がぴくぴくと痙攣し、ばたっと倒れて動かなくなった。
真後ろから3体目が殴りかかってくる。
楯を踏んだまま長剣を構えて感覚を研ぎ澄ます。
「シッ!」
ミカエルは地面を蹴って自身の乗った楯ごと回転しながら斬撃を放った。
一回転して剣先が元の構えていた位置に戻る。
背後で動きを止めたネフィリムの上半身がどうと音を立てて倒れた。
2枚3対の大翼を羽ばたかせてガブリエルは巨人の突進を回避した。
こちらもミカエルと同じく3体をまとめて相手取っている。
ガブリエルは十字架状の短剣を2振り、何も無い空間から取り出すと振り返った巨人の顔に目掛けて投げつけた。
短剣は吸い込まれる様に両眼に突き刺さり、ネフィリムの悲鳴の様にも聞こえる声が響き渡った。
だがまだ仕留め切れてはいない。
目をやられたネフィリムは両手を振り回して暴れ出した。
目が見えなくなっても強化された五感の内の残り4つによって気配を感じているらしく、ネフィリムは迷いなくガブリエルの方へと向かって来た。
ガブリエルは構えもせず悠々と向かってくる盲目の巨人を見据えている。
巨人は雄叫びを上げながら俊速の剛腕を振り下ろした。
神父は人差し指と中指を伸ばして素早く十字を切った。
ばしゃりと真っ白な背面から鮮血が吹き出して巨人の肉体が4つに分断された。
残り2体が我先にと飛びかかってきた。
ひらりと舞踊を舞う様に躱してステップを踏むかの様に後退した。
ネフィリムは理性を失っているので乱雑な動作を繰り返すだけだ。
ガブリエルは発勁を利用して瞬時に一体との距離を詰めた。
そのまますれ違いざまに取り出した短剣を脊髄に差し込んだ。
「Guuuugaaaaaa!」
悲鳴の雄叫びを上げながら、巨人は差し込まれた短剣を引き抜こうと背に手を伸ばす。
しかし引き抜こうと短剣の柄に触れた手をガブリエルが踏みつけた。
更に2本目の短剣を首筋に、3本目を後頭部に投げつけた。
哀れな巨人はがくがくと痙攣した後、力が抜けた様にぴたりと動かなくなった。
ガブリエルの正面から最後の一体が拳を振り上げて走ってくる。
ガブリエルは足元の死体を蹴り上げ、宙に浮いた死体を相手に向けて蹴り飛ばした。
飛んでくる死体を巨人は跳躍して回避し、そのまま勢いに任せて両の拳を振り下ろした。
神父は翼で体を覆う事によって発生させた不可視の楯で振り下ろされた拳を弾き返した。
そして、弾かれた事で大きく隙を晒したネフィリムの胸部に十字の短剣を突き刺した。
止めに巨人の腹部に正拳突きを打ち込むと、巨人は吐血しながら後ろへゆっくりと倒れて沈黙した。
ガブリエルは足元に転がる死体を一瞥すると二本指で十字を切った。
残った5体を纏めて相手取っている焔はネフィリムの連撃に手を焼いていた。一体一体は厄介ではないが、連続して威力に高い攻撃が迫ってくる以上、慎重かつ素早く、大胆に立ち回らねばならない。
ミカエルとガブリエルが6体程引き受けてくれたが、ルシファーは手を貸してくれないまま消えてしまった。
『お前の中にいるよ。』
脳内にルシファーの声が響いた。
一瞬気を取られ、一体の攻撃を受けてしまい数メートル飛ばされてしまった。
『私の中に…?』
『そうだ、自分が何者か思い出したか?』
『いや、まだだ。だが明星焔で無かった事はわかっている。』
『そうか…そこまで思い出せたのならあとひと押しだな。』
ルシファーの嬉しそうな声を初めて聞いた。
『力を貸してくれないか?』
『もう貸してる。』
『どう言う事だ?』
『奴らの力を吸収しろ。その為に力を貸してやってるんだ。』
『了解した。やってみよう。』
ネフィリムの小隊を飛び越して最初に粉砕した一体の残骸の元へと降り立った。
ばらばらになった一部を手に取ってみると、液状化した破片が体の中に吸い込まれていった。
と同時に取り込んだ腕を通じて全身に新たな力が循環していくのが分かる。
突進して来たネフィリムの右腕を手刀で切断し腕ごと吸収する。
隻腕と化したネフィリムの肩を蹴って別の個体に飛びつき頭から取り込んでいく。
吸収する度に力が増えていく。否、取り戻していく。
切って、取り込んで、殴って、取り込んで、蹴って、取り込んで
気づけば残すは一体のみ。
私は右手を腰に添え、左の平手を突き出して構えた。
アスファルトを蹴りつけてネフィリムが突撃する。
「お願いだ。助けてくれっ!」
「っ」
驚きの余り、回避するのが遅れてしまった。
何とかガードは間に合ったが少なからずダメージを受けてしまった。
だがそんな事は全く気にならなかった。
ネフィリムが口を聞いた。
この個体は人間だった頃の理性が残っているのか。
…凄まじい精神力だ。
かつて野私は力に飲み込まれ、野獣の様に暴れる事しか出来なかった。
並大抵の人間に出来る事ではない。
『あれを助ける手段はないか?』
『そんな事をしてどうする?どの道、ミカエルとガブリエルが殺すだろう。』
『ネフィリムを守ると言っていた割に随分と冷たいな。心変わりでもしたか?』
『…ちっ、何とかして力だけを吸い取れ。そうすれば上手くいくやもしれん。』
力だけ吸い取れと言われても吸収は特に念じてやっていた訳では無く、ただ触れただけで勝手に体内に取り込まれていたので制御の仕方など分からない。
…だがやってみるしかない。
ネフィリムが咆哮と共に向かってくる。
双方が同時に両手を上げて掴み合いになった。
今しかない!
力だけ吸い取る事を念じながら、触れ合っている両の掌から吸収を発動させる。
果たして、眼前のネフィリムは少しずつ人の姿を取り戻していった。
『もう良いぞ、離せ。』
急いで手を離すと、完全に元に戻った男は気を失って倒れた。
男を道路脇に寝かせて、散らばった死体を吸収していく作業を終えるとミカエルとガブリエルが戻って来た。
「おめでとう、力を取り戻したんだね。」
「あぁ、まだ完全とは言えないが。」
ミカエルは朗らかに笑うと手を差し伸べた。
その手を握ろうとしたその時、胸を黒い剣が貫いていた。
堕天せし明けの明星 ばりるべい @barirubei060211
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