第8話 実力証明
部屋に響いたソフィアの声に、村長たち含め、その場の全員が振り向いた。彼女は周りの目におびえながら、少し震える声で話しはじめた。
「あ、あの、わたし……、その方に、『浮遊』の魔法、お伝えしたい、です。いっしょに勉強してくださる人がいたら、私も、もっと『浮遊』が使えるようになって、村の役に立てるかも……」
「ソフィア!! そんなことは一人ですることだ! よそ者に頼ろうなど、言語道断!」
「よさないかアルド!」
アルドの怒鳴り声に、ソフィアはまたうつむいてしまった。彼女の手は握り締めすぎて白くなり、膝にはぽたぽたと水滴がおちている。
……流石にこの状況を見て見ぬふりはできない、俺も腹を括るとしよう。
どの道、『浮遊』の根源魔法を教えてもらえるのなら、こっちとしても願ったり叶ったりだし。
言い争いを続ける村長達からそっと離れて、エルフ達の輪の方に歩く。向かう先はもちろん、ソフィアのところ。目の前でしゃがみ込むと、ソフィアも俺に気が付いたようで、びっくりしたように顔を上げた。
「あー、ソフィア、さん? もしよかったら、俺に『浮遊』の根源魔法を教えてくれないか? 必ず習得して、君と一緒にこの村の魔法陣を修復すると約束しよう」
「――っ、は、はい!」
よし、良い笑顔だ。少なくとも新人のうちは、頼れる上司か一緒に取り組む仲間がいないと、仕事ってのは上手く回らないからな。上司にはなれなくても、魔法陣の修復、という一つの目的を達成するための、バディになってあげようと思う。
ホッとした顔で笑うソフィアに気を取られていると、アルドが俺の胸倉を掴んで無理やり立たせてきた。
「何を勝手に話している、殺すぞ下等種族! そもそもヒトである貴様が、エルフの魔法を習得しようなど、図々しいにもほどがあるわ! 過去に貴様らがエルフに何をしたのか、忘れたとは言わせないぞ!! 何か目的があるんだろう、吐け!」
俺の身体を揺さぶりながら、アルドが怒鳴りつけてくる。過去にヒトとエルフとの間で何があったかは知らないが、とりあえず、暴力・暴言・差別発言でトリプルアウト。この世界にパワハラとかカスハラとかの概念ってないのか?
「お、落ち着いてください。アルドさん、でしたっけ。私は純粋に魔法の研究をしているだけの、しがない一般人ですよ。確かに、『浮遊』の根源魔法について知りたいと思ってこの村に来ました。でも、それ以上に、目の前でこんなに困っている方がいて、もし自分が力になれるなら、力になりたい。そう思うのは普通ではないですか?」
「信用できるわけないだろう! そもそも、根源魔法がそんなに簡単に習得できると思うな!」
「それはそれで良いのではないでしょうか。私が根源魔法を取得できなければ、『浮遊』の根源魔法の秘密は守られる。――しかし、もし習得できれば、必ず魔法陣の修復に全力を尽くすと、お約束します」
相手の目をまっすぐ見つめながら、誠実そうに、しかし、有無を言わせない圧を若干滲ませて話す。無茶を言ってくるクライアント相手に、よくやってた交渉方法だ。これで一旦引き下がってくれればいいんだが……
アルドは少したじろいだように一瞬視線を逸らしたが、また般若のような顔で睨んできた。そして、急に胸倉から手を離し、俺から距離を取る。
「――そこまでいうのなら、まずはお前の実力を見せてもらおう!
アルドの呪文と同時に、地面からいくつもの木の槍が生えてきた、かと思うと、槍はこちらに切っ先を向けて一斉に飛んでくる。躊躇無しかよ、一応俺客人だぞ?!
なんとか串刺しを避けたい一心で、こちらも必死に呪文を重ねる。
「っ、
俺が叫ぶと、空中で急停止した木の槍は、そのまま燃え上がって灰になった。『モンスター撃退魔法のススメ:小型魔物編』、読んでてよかった……。
余裕がなかったから反射的に燃やしてしまったけど、この建物が石造りで助かった。エルフの村で火魔法とか、下手すりゃ山火事になっちまうからな、反省。
荒くなった息を整えていると、パチパチと気の抜けた拍手が聞こえてきた。
「ヤァー、流石旦那! 瞬時に木の槍の勢いを殺して燃やすと同時に、無詠唱でバリアを張るなんざ、見せつけてくれますなァ!」
「……えっ?」
あ、やべ。この一年、庭いじりの時に蜂やら何やらに刺されそうになるのが嫌すぎて、ことあるごとに防御魔法使いまくってたんだ。さっき完全に無意識で発動してた。
「ね? 村長さん、あっしの言った通りでショ?」
「あぁ、これほどの方であれば、『浮遊』の根源魔法をお伝えするのに、なんの不安もない! ――アルド、この方の実力、もう疑うべくもあるまいな?」
「――クソッ!」
アルドは吐き捨てるように言うと、ドカドカと足音を立てながら集会所を出ていった。あとでまた無茶なクレームつけてこなきゃいいんだが……
「ハットリ様、アルドの数々のご無礼、大変申し訳ございません」
「いえ、お話に横槍を入れてしまったので、不安になる方もいると思います。気になさらないでください。むしろ外部の人間であるにもかかわらず、差し出がましいことを言ってしまいました、申し訳ない」
「槍刺されそうになったのは旦那ですけどネ」
茶々を入れてくる行商人を小突きながら、村長に軽く頭を下げる。こういう揉め事があったとき、まずは
「いえいえ!ハットリ様にご協力いただけるのであれば、こちらとしてもとてもありがたいことです。では早速、『浮遊』の根源魔法について、ソフィアに案内させますね。 ――ソフィア!」
「は、はい! えと、よろしくお願いいたします、ハットリ様!」
「ああ、よろしく頼む」
空飛ぶ箒プロジェクト!~元社畜の転生日誌~ 草葉野 社畜 @kusaba_no_syatiku
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