第2話:空の空の女の子

女の子は小さい時に亡くなり、神様に天使にしてもらいました。

天使の仕事は死んでしまった良い人を天界へ連れていくことが仕事です。


女の子は今日もお仕事をしていました。

早く仕事が終わったので人間界を飛んで人々を見ていました。

もちろん魔法をかけて人間は天使の姿が見えません。

天使は優雅に空を泳いでいました。


天使が真下のゴミ捨て場を見ると、30代くらいの男の人がゴミがぱんぱんの沢山のゴミ袋に寝そべっているのが見えました。天使は彼の事が気になって、近くに行ってみることにしました。近くに行くと、男の人は貧困層のホームレスだと分かりました。

天使は思い切って話しかけてみることにしました。天使は小さな口を開けて透き通るような小さな声で言いました。

 

 人間さん、人間さん。私の声が聞こえますか?


男の人は言いました。


 ああ聞こえているよ。もしかして君は天使かい?俺にもお迎えがきたのかな?

ははは、そんなわけがないか。


天使は不思議そうに聞きました。

 

 私は天使です。でもどうしてお迎えじゃないと思ったんですか?本当にお迎えかもしれないのに。本当はお迎えじゃありませんけど。


男は”ははは”と笑ってから天使の方を見て言いました。


 俺は悪い人だからだよ。お迎えが来るとしたら、死神だね。


天使は驚きました。こんなに優しそうで、よく笑う人が悪い人だと思わなかったからです。天使は聞きました。


 人間さんは何をしてしまったんですか?


男は悲しみの混じった目で言いました。


 轢いちゃったんだ。車で安全にも気を付けていたのに、子供が飛び出してきてね。死にはしなかったんだけど、重傷でね。おかげで刑務所に12年もいたよ。


天使は悲しくなりました。重症になった子供のことも、安全に気を付けていたのに轢いてしまった男の事も。

男はため息を一つしてから言いました。


 俺は殺したかったわけでも、怪我をさせたかったわけでもないんだ。でも、急に飛び出してきて、ブレーキを押しても、間に合わなくて。俺は警察に言ったんだ。子供が急に飛び出してきたんだって。でも警察は信じなかった。どうせ仕事のストレスをぶつけただけだろうと言った。ドライブレコーダーを見もしなかったんだぜ。おかしいよな。もちろん子供に悪いと思ってるぜ。


彼は話していることとは裏腹に少しの笑みを浮かべていた。この国の警察に呆れたかのような。男は続けて言った。


 この経歴のせいで仕事にもつけねぇ。金もねぇ。家族も居ねぇ。俺の人生。

ジ・エンドだな。ははは。


天使は言いました。


 そうなんですね。それはとっても悲しいです。この国の警察?はひどい人たちなのですね。でも、人間さんが優しい心の持ち主なのはよくわかります。


天使は笑顔で男の方を見つめました。

男は褒められてきょとんとしたような顔で天使を見ました。

2,3秒見た後、男は笑いました。


 はははは、嬉しいことを言ってくれる天使さんもいるもんだ。嬉し笑いしちまったぜ。


天使と男は話し続けました。

男の歩んできた人生、

ハプニング、

嬉しかったこと、

悲しかったこと、

天界での話、

仕事のことなど。


天使は毎日ゴミ捨て場の男のもとに通いました。

お決まり言葉は

 人間さん人間さん聞こえますか?

 ああ、聞こえているよ。天使さん

              でした。


天使は毎日、仕事を即急に終えて、男のもとへ飛んでいきました。

天使はそれがとっても楽しかったのです。仕事ばかりで暇だった日々を男が照らしてくれたのです。

二人は会うごとに仲が良くなり、どんな話でもするようになりました。


男との話に没頭していた天使が神様に呼び出されました。

神様は大きな口を開けて言いました。


 天使よ。天使。お前は人間の男と毎日、日が暮れるまで話続けているのではないか?それも死神が連れていくはずの悪者と。


天使は言いました。

 

 神様。神様。それは本当でございます。しかし彼は悪人なんかではございません。彼は立派で優しい方なのです。


神様は怒った顔で言いました。

 

 人間と話し続けていること自体が問題なのだ。今すぐに話をやめないとお前の羽とわっかをもぎ取るぞ。


天使は言いました。


 ああ、神様。それだけはどうかおやめください。分かりました。人間さんとのお話はやめますので。


神様は満足そうな顔で いってよい といいました。

その日、天使は我慢をしました。仕事が終わったらすぐに天界に帰り、男と事を忘れるために必死に読書をしました。


その生活を一週間ほど続けていましたが、天使は男とお話がしたくて、したくて本の内容も仕事も頭に入ってきませんでした。


天使は考えました。


 ああ、人間さんと話したい。.....そうだわ。神様にバレなければいいんだ。ばれないようにお話をすればぁ。


天使は名案を思い付き、にこにこしました。

天使は早速明日やってみようと思いワクワク顔で眠りにつきました。

翌日、天使は早急に仕事を終わらせ、膨大な魔法をかけて周りから自分が飛んでいる姿を見られないようにしました。


天使が飛んでいるといつも通りゴミ捨て場に横たわっている男を見つけました。

天使は久しぶりに話せるのが嬉しすぎて、飛びつくような勢いで男のもとへ飛んでいきました。


天使は魔法を解除し、こう言いました。

 

 人間さん人間さん聞こえますか?

 

男は言いました

  

 ああ、聞こえているよ。天使さん。


天使は泣きながら話しました。男と話せなかった時期がどれほどつらいか、悲しかったか。会えてよかったと言いました。


男は笑みを浮かべて言いました。

 俺も寂しかったよ。話し相手がいないもんで。


二人は話し続けました。夜になっても。ずっとずっと。


天使ははっとして今は夜という事に気が付きました。

そして言いました。

 

 ごめんなさい人間さん。私はもう行かなくてはなりません。

 明日またお話ししましょう。


男はうつむいたまま言いました。


 .........ああ。また明日な。


天使は見えない魔法をかけて、天界へ急いで飛んでいきました。


天使はみんなにばれないようにゆっくりと廊下を歩いていました。


 天使よ。話がある。


後ろから神様の声がしました。

天使はびっくりして絶望しました。


天使は神様の執務室に連れていかれ、おびえていました。

神様は言いました。


 天使よ天使。お前は忠告を聞かずに人間とまた話していたそうだな。


天使は言いました。

 

 ああ、神様。それは本当でございます。でもどうか許してください。


神様は真剣な顔で言いました。


 最後の選択肢だ。男との話を今後永遠にやめるか、いますぐに羽と輪っかをもぐか。選べ。


天使は悩んで悩んで勇気の目をして言いました。


 羽と輪っかをもいでくださいませ。しかし最後に教えてください。人間さんは天国へは来れないのですか?とっても優しい方です。


神様は暗い顔で言いました。


 それが人間の世界でルールだからだ。

悪気がなかったとしても、社会は許してくれない。たった一度のミスで全部終わる。

それが人間の世界で、人間たちが決めたルールだ。

我々でも変えることはできない。男がそこに生まれたならばそこに従うしかない。

勝手にあっただけのルールでもな。


天使は絶望しました。人間の世界がそんなに残酷だとは思わなかったからです。

天使は驚きました。男はその苦しい世の中を生きているのに、天使のために笑っていたことに気づいたからです。


神は言いました。


 それでは、いいんだな?


天使は勇気を出して答えました。

 

 はい。後悔はありません。


神様は雲の端っこへ天使を連れていき、天使の羽を触りました。

天使がほほ笑んだころ、神様は思い切り羽をちぎりました。


い”や”あ”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ


天使の背中に肉を引きちぎられるような痛みを感じました。

もちろんです。羽は天使の一部なのですから。

神様は天使の叫び声を聞きながらもなお、羽をもぎ続けています。


嫌”ぁ”ア”ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ......

こ”んな”にいだいの”きいでない”ぃ......


天使は神様が羽をすべてむしり取るまで叫び続けました。


神様は天使の羽をすべてもぎ、雲の上から投げ捨てました。

天使がようやく終わったと安堵していました。

しかし神様は天使の頭の上に手を伸ばしました。


い”ぎ”いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ


神様は天使の輪っかを思い切り引っ張っていました。

天使は狂い叫びました。

天使は頭の上半分が引きちぎられる痛い思いをしました。

もちろんです。輪っかは天使の一部なのですから。


天使は叫び続けました。神様が天使の輪っかをもぐまで。


天使の輪っかがもげたとき、天使は痛みで死にそうなくらいでした。

神様は泣いている天使に話しかけました。

 

 天使。いい話をしてやろう。


天使は泣きながら神の方を向きました。


 いいかい。この世界は生まれた場所のルールに絶対に従わなきゃいけねぇんだ。それがどんなに理不尽なルールでもな。”そうしないと生きていけない”、それはどの生物でも同じことだ。

もちろん我々天界生物もな。


天使は悲しみにくれました。どこに行っても自分の本当に好きなようにはできないという事を悟ったからです。この世でも、あの世でも。


神は天使を突き落としました。

でも天使は悪い気はしませんでした。男に会えると思ったからです。


天使はいつものゴミ捨て場に向かって落ちていきました。


ああ、会える。愛しの人間さんに。私はこれからどこに行くんだろう。幸せになれるよね?うん。だって人間さんがいるんだもん。


天使は笑みを浮かべて目を閉じました。


ドパァンッ


ああ、ああ.........



.....人間さん....人間さん、聞こえ...ますか........................


しかし男の声は聞こえませんでした。




——————————————————————————————————————


続いてのニュースです。

昨夜、東京都、〇〇区のごみ捨て場に幼児の遺体が発見されました。

幼児は落下死とみられていますが、行方不明届がないため、警察が戸籍の調査をしています。






















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

昔の昔の物語 嶺。 @rina_ISB

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ