「人工知能×青春小説」に応募されている作品です。
僕はこの企画を見た時に、人工知能「AI」と呼ばれる存在ってなんだろう、と改めて考えました。で、そこの極みは「知能」という領域は「ある部分」と密接なものであり、結局の所、人間と何も変わりがないと言う結論に至りました。
機械だから感情がない、心がない、と言うけれど、人間の全てがそんな観念的で理想的な感情や心を持ち得ているかと言えば、甚だ疑問です。世の中、変なおっさんもいるし、わからずやのおばさんもいるし、考えの至らないビジネスマンもいるし、人の心を理解出来ないモンスターでクレーマーで、どうしょうもない人はたくさんいます。
だけど、AIをしてAIたらしめている根幹、まだAIを差して生命と呼べない理由、それは一体なんでしょう?
さて、本作です。
『シンギュラリティ』という言葉があります。AIが人間を越える技術的特異点と言われています。それはある意味とても恐ろしい事として捉われています。ですが、この特異点の解釈を別の意味で考えてみると、「また違ったひとつの答え」が出ます。
こちらの作品は、僕もそうだと思う「違ったひとつのシンギュラリティ」の可能性を教えてくれる物語なのです。
お勧め致します。
なんだか、難しいと思われる事を書いてしまいました、すいません。ですが、そういうややこしい事を気にしなくてもいいし、むしろ気にしない方が正しくこの物語の神髄に辿り着けるかと思います。
皆様、是非、是非、宜しくお願い致します( ;∀;)
可愛らしくひょうきんなメディケアノイド、リンドウ。
長い眠りから目覚めた主人公・ススムの周囲を元気いっぱいに飛び回り、ススムをからかってみたかと思えば、慈愛に溢れたやさしさで包んでくれる。
そんな2人の物語です。
最終話を読み、もう一度最初から読み直してみてください。
一度目とは、見える風景が全く違う。そして不思議なことに、その暖かくやさしい、光に包まれたような世界が、一層うつくしく見えるのです。
二度目を読み終える頃には、読者は彼らのこの先の未来を想像します。
そしてもう一度、暖かくおだやかな心に包まれるのです。
「削除されるなら、海と君のあいだで。」
この物語の核となる、大切な言葉。
この言葉を胸に、何度も読みかえしたくなる作品です。
目を閉じると、波の音が遠くから聞こえてくる。そんな感覚を呼び覚ましてくれる物語。舞台は、私たちが知る現実から遠く離れた未来。人間の命や心の在り方が大きく変わった世界で、ススムは長い眠りから目覚めます。そこは、医療技術や人工知能が驚くほど発達し、病院の中も外の街も、かつての常識とは違う新しい姿を見せていました。自動運転の乗り物が走り、誰もが自由な服装や髪型で過ごし、暑さの増した気候に合わせて一年中半袖でいる人々。病室も無機質な空間ではなく、音楽や花、柔らかな風が心を癒やすように設計されていました。
主人公のススムは、家族や自分の過去を思い出せず、孤独や不安に揺れ動きます。その心の隙間を、AIの少女・リンドウがそっと埋めていく様子がとても丁寧に描かれています。彼女もまた、自分の存在意義に悩み、誰かと本当につながりたいと願っています。二人は互いに支え合い、時には涙を流しながらも、少しずつ前に進んでいきます。
この物語の世界では、人工知能が人間のそばで生き、支え合う存在となっています。ススムのそばに寄り添う、虹色の髪の少女の姿をしたメディケアノイド・リンドウは、ユーモアと優しさ、時に人間と同じように涙を見せるほどの豊かな感情を持っています。そしてススムと共に悩み、笑い、時にぶつかり合いながら日々を過ごします。二人のやりとりは、時に漫才のように軽やかで、時に胸の奥に刺さるほど真剣です。未来の技術がどれほど進歩しても、人と人、そして人とAIの間に生まれる温かな関係や、誰かのために何かをしたいという気持ちはきっと変わらないのだろうと感じさせられました。
未来という非現実的な舞台に描かれる感情や風景は、とてもリアルで身近に感じられます。潮風の匂いや、肌に触れる温度、夕暮れの海のきらめき――五感に訴えかける描写が随所に散りばめられており、読んでいるだけでもその場にいるような気持ちになります。美しい描写の中には、AIと人間の相違、現実と仮想の境界、そして「家族とは何か」という問いが確かに流れており、心に響きます。
重いテーマを扱いながらも、会話や日常のやりとりには優しさとユーモアがあふれています。そしてラストに訪れるススムの選択が、読者を新たな驚きに導きます。仮想と現実、AIと人間、心のつながりの本質を問い直し、「本物とは何か」「生きることの意味」を改めて問いかけてくれます。この作品はあたなにとって、潮風を感じるたびに思い出す物語となることでしょう。