第13話 おもてなし

最早常連客となった大型ホームセンターへ向かう。


なんだかんだここへ来ると心がワクワクする。

様々な材料や工具を見ると、童心に帰った気分になれるのだ。


「いらっしゃいませ!本日は何をお求めですか!」


商品を眺めながら歩いていると、珍しいことに後ろから、女性店員に声を掛けられる。

・・・・・・ていうか、この前、引ったくりにあっていた女性だ。


店員:市川 美織


階位?


あの時のブチギレ顔とは大違いだな。

と、思っていたら俺の顔を確認するや否や豹変。

市川のどこかぎこちない営業スマイルが、驚きの様相を見せた。



「あぁっ!?お前、あの時のおっさんじゃん!」


意外にもこの女、市川は俺の顔を覚えていたようだ。


「あんがとなー。あのバックに大事なもん色々入っててさぁー。まぁじで焦ったわー」


市川は俺に詰め寄ると、やたら気安い感じで話しかけてきた。

ついさっき声掛けした時のおもてなし感はどこにいった。


「それはよかったですね。怪我はありませんでしたか?」


「ないよー。おっさんの蹴りくらってた馬鹿は怪我してたけど、ざまぁないね!」


ひったくり犯はあの後で死んでいた、というような事件性はないようで安心だ。

軽く世間話をするが、彼女は数日前からここでバイトをしている女子高生らしい。


「ところで何を買いに来たんだ?あたしが案内してやるよ」


「もう何度もこの店に来てるし、大丈夫だよ」


「ほーん。常連なんだ」


軽く辞退を申し出てその場を立ち去ったつもりだが、市川は俺の後をついてきた。

・・・・・・買い物し辛いんだが。


「その怪我どうしたんだ?すげぇ痛そうじゃん」


俺がトレッキング用の靴を選んでいると、彼女が俺の顔に指を差してきた。

酷い傷だったこめかみや頬の傷はもう治っているが、傷跡はそのまま残ってしまっていた。

お陰で俺の顔はある意味で、印象的なビジュアルとなっている。


「あー・・・・・・。ちょっと前に山で転んで、その時に大怪我をしてな」


「うわぁ。そんな目にあっても、まだ登る気なのか?」


彼女の反応は呆れる、というより心配をしている方の顔だ。


「そうだな。どうしても、やめる気にはなれなくてな」


「ふーん・・・・・・」


その後、次なる目的である木材などの資材を大量に購入する。

武器などは今後消耗や失う事を考え、大量にストックして置くことにしたのだ。


「そんなに買って何作るつもりなんだよ」


「最近流行りのDIYだよ」


結局、彼女との話は買い物の清算が終わるまで止まる事はなかった。

まぁ、動けないひったくり犯を蹴りまくる狂暴さはあるけど、悪い子ではないのだろう。


「お、おい。それ担いで帰るつもりなのか?」


「ああ。家は割と近くなんだ」


大量の買ったブツを両手と背などに担ぎながら店を出る。

市川の指摘の通りかなり目立ってしまっていた。

軽トラでもあればな。


そのまま家まで歩いて帰宅、部屋が資材のせいで余計狭くなってしまった。

まあいい、早速武器の制作に取り掛かる。我ながら手際がよくなったものだ。

ステータス上昇による恩寵もあり、。力作業は楽になったし、スタミナも上がっている。


鋸でギコギコ木材を加工していると、玄関のチャイムが連打される。


相手は出なくても分かる。

お隣の詐欺師だろう。


「喧嘩売ってんのかゴラァ!出てきやがれボケがッ!」


もうちょっとで木材が切れそうだ。

騒いでる奴は放置でいいだろう。


すると数分後に今度はドアからガギンゴキン金属音が響いてくるようになった。

おいおい、なにしてるんだ。

ドアスコープを覗くと詐欺師が半狂乱でドアを金属バットで殴っている様子が見える。

周辺住民から警察に通報されてもいいのかよ。お前詐欺師だろ。

ドアを破壊されては不味いので、しかたなくドアを開いて会ってみる。


「あsbんぢあぃfbヴぁs!!!!!」


物凄い剣幕で詐欺師は何かを叫んできた。

ただ、呂律がまわっていないため、何言ってるかさっぱりだ。

というか、物凄く酒臭い。

詐欺師の顔を見るが、目の焦点が合っていない。

違法薬物でもやってるのだろうか。


以前の俺だったら警察に通報するなり、常識的な対応をしていたのだろう。

いや、そもそも隣人とのトラブルを避けて、騒音なんて出さないか。


俺の意識は殆ど異世界の探索と戦いの事に傾いているため。

こっちの生活と周囲の物事に対し、鈍くなっているのだろう。


自己分析で詐欺師の罵倒を聞き流していたら、あろうことか金属バットを俺の頭にフルスイングしてきた。


「うぉっ」


頭を下げ、ギリギリのところで躱す。

小鬼の棍棒を思い起こす速度の振り。

当たれば、下手したら死ぬかもしれない。


死の恐怖が蘇る。

手に力が籠り、頭が熱くなる。


歯を噛み締め、俺は殆ど反射的に、右の拳をフック気味に振る。

右拳は詐欺師の頬に綺麗に入り、詐欺師の強面を間抜けな形に変形させた。


「ぶごォっ!?」


詐欺師の身体が吹っ飛び、後ろの手すりの柵に勢いよくぶつかる。

周囲に派手な音が響く。

詐欺師の身体がぐったりと、地面に崩れ倒れていた。


「・・・・・・・・・・・・」


あーあ。

ついやってしまった。


詐欺師は白目を剥いて口と鼻から血を流している。

うわ、歯も折れてないか?


俺は素早く周囲を観察する。

よし。

誰にも見られていないな。

隣にある詐欺師の部屋のドアノブを回す。

予想通り、カギはかかっていない。


詐欺師の家のドアを開放したままにし、詐欺師をお姫様抱っこする。

俺より背が高い野郎なのに、子供のように軽く感じる。


そのまま土足で中へ不法侵入。

詐欺師の部屋は意外にも汚くない。

寧ろ俺の部屋より遥かにおしゃれでイラッとする。


詐欺師を敷かれていたカーペットに放り投げる。

テーブルの上に数本のストロング缶とビニールに包まれた怪しげな粉がいくつかあった。

怪しげな粉をスマホで撮影し、謎粉一袋頂く。


未開封のストロング缶を一つ取り上げ、プルタップを開けて詐欺師の顔に、たっぷりとぶっかけてやった。


「うっぐ・・・・・・・っ」


詐欺師の頭をつま先で小突く。


「おい。いつまで寝てるんだよ」


「くっ。て、てめぇ・・・・・・。何のつもりだ!」


「お前が金属バットで殺しにかかってきたんだろ」


「暴行傷害だ・・・・・・!訴えてやるッ!」


「ふん。詐欺師のお前が警察に頼るのか?」


詐欺師が僅かに目を見開く。


「・・・・・・はぁ?意味が分かんねぇ。何言ってやがる」


詐欺師だけあってポーカーフェイスが上手いな。


「詐欺師。荒屋 海座。証拠は握ってんだよ」


「・・・・・・こんなことをして、タダですむと思ってんのか?」


俺を睨みつけているが、全く恐怖を感じないな。


「俺の生活の邪魔をしなければ。警察にチクったりはしない」


回収した謎の白い粉袋を持ち上げ、詐欺師の鼻の先で振る。


「そうすれば、この薬の事も黙っていてやる」


「何勝手に盗ってんだよッ!」


俺に掴みかかろうとする詐欺師の腹を蹴る。


「ぐげぇええぇッッ!」


詐欺師は悶絶し、凄い勢いでカーペットに胃の内容物を吐き出している。

強く蹴りすぎたか?

人に暴行したことがないから加減が分からないな。


「いいか?詐欺師。最初で最後の警告だ。俺の、生活の、邪魔を、するな」


手で髪を毟るように頭頂部を掴み上げる。


「もし、次に少しでも物音を立てたりして俺の邪魔をしてみろ」


詐欺師の表情に初めて脅えが見えた。


「お前をこの世界から消してやるよ」


言葉通りの意味で俺が本当に可能な事は、この詐欺師には理解しようがないだろうな。

こいつはそれなりに頑健そうだが、水も武器もなしであの世界を何日生き延びられるだろうか。




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勇者が敗れた終末異世界を日本に戻りつつ探索する ~サバイバルダークファンタジー~ 虹色ステーキ @isekaityuudoku

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