第12話 パノラマ
冷えて乾燥した空気。
喉の渇きを感じ、不快感と共に起床する。
水道水で口を濯ぎ、吐き出した後に喉を潤す。
昨日の傷の痛みを感じない。
鏡の前で頬のガーゼを取り、傷を確認してみる。
おー・・・・・・。
もう穴が埋まって、かさぶたが出来てる。
やばいぞ、この回復力。
俺の身体どうなってるんだ?
朝昼兼用の食事として、カップラーメンを食べながら脳内反省会を開く。
昨日は流石に無茶をし過ぎた。
火炎瓶とかぶっつけ本番だったし。
戦闘でもただ運がよかった要素が多かった気がする。
一度殺されたことで、精神がおかしくなっていたのかもしれない。
負傷による反省を生かし、今日は片手で扱えるような、小型の盾を制作することにした。
ホームセンターに行き、ある程度固くて割れ難い木材の板を購入する。
材料を家に持って帰り、30センチ程の正方形になるよう鋸で切断した。
隣から壁ドンがくる。
申し訳ないとは思わない。連日、向こうの詐欺師も煩いしな。
盾となる板を持ち上げてみる。
・・・・・・うむ。この位の重さなら扱えるか。
重さは5キロ以上ありそうだが、今の俺ならばそれほどの負担にはならない。
後は前腕部に固定する輪っかと、取っ手の部分をネジで固定し完成だ。
かなりの雑な代物である。
後は実際に使ってみながら、追々改良していこうと思う。
さぁ、今日も異世界にいくか。
★
大岩の裏へ降り立ち、素早く周囲を見回し警戒する。
・・・・・・あれだけ転がっていた筈の小鬼共の死体が、綺麗さっぱり消えている。
仲間が運んだのだろうか。
あいつら共食いしてたしな。
遠くまで双眼鏡で観察するが小鬼の姿は見えない。
そこから一時間程歩く、いつ小鬼が飛び出てきても対応できるよう、クロスボウを構えながら慎重に探索する。
しかし、予想外なことに小鬼は未だに現れない。
これはどういうことだ?
まぁ、いないのならばこのまま進むだけだ。
更に2時間歩き進むと、遠くに洞窟らしきものを発見する。
近づいてみると結構な大きさの穴なのだと分かった。
地表から地下へ傾斜するように横長の入り口が開いている。
幅は10メートル、高さ2メートルはあるだろうか。
もしかしてこれ、小鬼の巣か?
洞窟入口の脇で耳を澄ませてみた。
・・・・・ダメだ。
周囲の風鳴りが煩くて何も聞こえん。
思い切って首を伸ばし、中を少し覗いてみる。
先の方は真っ暗だな。
この感じだと、結構奥まで続いてそうだ。
懐中電灯があればな。
いや。あっても行かないか。
依然として周囲に小鬼の気配はしないし、無視して進もう。
踵を返し、踏み出した足元が一瞬、暗くなる。
首筋が泡立つような感覚が襲う。
「がっ!?」
身体の両肩、両脇、両腕に衝撃が走る。
はっ?えっ!?
次の瞬間、赤茶けた地面が吹き飛ぶように遠ざかっていく。
風が荒れ狂い。息ができない。
両脇からの凄まじい締め付け、ジェットコースターに乗ったような浮遊感。
何かに拘束されている!
頭上からの暴風に目を細めながら、唯一動く首を動かし、視線を上げる。
鳥!?
馬鹿でかい、全長15メートルはありそうな鳥に俺は捕まっていた。
ウインドウが表示される。
一眼青影大鷲
階位58
―――――階位58・・・・・・だと。
ぐっ、一眼青影大鷲は凄まじい速度で尚も上昇している。
既に落下したら確実に死ねる高さだ。
そもそも鷲掴みにされてるこの拘束。
さっきから全力で藻掻いているがびくともしない。
状況は、絶望的だ・・・・・・。
しばしの間、呆然と上空からの光景を眺める。
また、俺は死ぬのか。
「・・・・・・くそ」
首を振る。
「畜生っ!いやだっ!死にたくねぇっ!この卑怯者ぉっ!クソ鳥がああああぁッ!」
理不尽な状況への怒り、死への恐怖で涙が溢れてくる。
「離せっ!離せよっ!殺すッ!ぶっ殺してやるっ!」
「キィアアアアアァァァァァッ!!」
青影一目大鷲が鋭い鳴き声を上げると巨大で鋭利な足爪が、俺の身体へと徐々に喰い込んできた。
用意したばかりの盾はあっさり割れ砕け、胸や腹に致命的なまでに深く、爪先が突き刺さっていく。
「あがッ!ぎっ!ぐげぇっ・・・・・・うぐぎィぃぃィいい・・・・・・っ」
俺の身体が。
俺の身体が、ぐしゃぐしゃに、破壊されていく・・・・・・。
「おぶゅっッ・・・・・・・」
最後に口から何かを大量に吐き出し、俺の意識は途絶えた―――――――。
――――――――――――――――――――――。
―――――――――――――。
「はあああぁッ・・・・・・!」
ベットから飛び起きる。
「はぁっはぁっはぁ・・・・・・っ!」
・・・・・・見慣れた部屋。
裸の俺。
ガタガタと全身が震え、歯がガチガチと鳴る。
思わず両腕を抱いて蹲ってしまう。
大丈夫。
大丈夫だ。俺は生き返ったんだ。
「・・・・・・なんだよ。・・・・・・あんなの、アリかよ・・・・・・」
襲撃された状況を思い返す。
小鬼がいなかったのは、あのデカ鳥がいたからだ。
この間は地中からの強襲で死んで、次は上空からか。
あのクソ異世界は、命が幾つあっても足りない地獄だ。
・・・・・・まぁ。
こっちは幾らでも死ねる訳だけどな。
「は、はははは・・・・・・」
乾いた笑いが出る。
「はぁ~・・・・・・」
ベットに倒れ、目を瞑る。
俺の人生でも最悪な、トラウマ間違いなしの体験。
それでも。
今回、思わぬ形での大きな収穫があった。
遥か上空からの視点。
赤い荒野の地平線。
遥か遠くに山脈が見え。
そして、微かに、なにがしかの建造物が見えた。
方角は分かる。
光景は脳裏に焼き付いていた。
「また、一から装備を準備しないとな・・・・・・」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます