第11話 穴
「ギギャアア!」
奇声上げて向かってくる小鬼に、こちらもぶつかる勢いで突っ込んでいく。
死を経験した事で頭のネジが外れたのか、以前のような恐怖は感じない。
いや嘘。やはり恐ろしいものは恐ろしい。
「ふッ!」
小鬼が凶器を振りかぶる前に、顔面へ槍を突き刺す。
「ゴギャ!?」
運よく小鬼の眼球に当たった。
そのまま抉り込むように槍の穂先を突き込む。
「ガっゲギ・・・・・・っ」
小鬼が痙攣しながら膝から崩れ落ちる。
―――なんか。
小鬼の動きが遅く感じる。
動体視力や瞬発力も上がっているのかもしれない。
「「ギャアギャア!」」
小鬼共が殺到中。
統率などとれている筈もなく、バラバラでこちらへ向かってくる。
このまま一体一体、素早く殺せば対処できるかもしれない。
「ハァッ!」
次の小鬼も先手を狙う。
槍先を首元に狙いを定め、突き出す。
「ギャガァッ!?」
穂先の刃が小鬼の首筋を裂いた。
血が大量に噴き出ている。
小鬼が両手で首筋を抑え、その場で蹲る。
いける。
常に先手で一対一の状況を狙えば、リーチの差で明らかにこちらに分がある。
次だ。
同じように小鬼の顔面、その鼻先を狙う。
棍棒で弾かれた。
もう一度狙う。
と、見せかけて胸に突き刺す。
「グギィッ」
単純なフェイントだが上手くいった。
しかし、小鬼は胸から血を流しながらも、棍棒を振り回してくる。
しぶとい個体だな。
こいつらは頭部に致命傷を与えなければ、動きを止められないようだ。
早く処理しなければ。
次の小鬼が迫って来ている。
「オオオッ!!」
力任せに槍を振り、小鬼に叩きつけてやる。
小鬼に棍棒でガードされる。
が、構わず槍を幾度も振り下ろす。
こちらの方が腕力がある。
滅多打ちにしてやる。
「ギッ!グギッ!ガッ・・・・・ァ!」
今の光景を第三者から見れば、完全に弱い者いじめをしているクズ野郎にしか見えないだろうな。
だが悪いな。これは真剣な殺し合いなんだ。
渾身の一振りが小鬼の二の腕にめり込む。
何かが砕ける音が鳴り、小鬼の腕が歪む。
「ギグゥッ!?」
小鬼の手から棍棒が零れ落ちる。
完全に怯んだ小鬼の喉元に槍を突き込み、素早く引き抜いた。
「はぁッ!はぁッ・・・・・・!」
「「グギャアアア」」
うっ!?
今度は小鬼が2体並んで襲い掛かってきた。
しかも片方は槍を持っている。
飛び掛かろうとするところを、槍を大きく振って牽制する。
なんとか小鬼2匹の勢いを殺せた。
「はぁっ・・・・・・ふぅッ・・・・・・!」
「ギャウァッ」
小鬼が槍を突き出してきたので力いっぱい弾く。
そのまま距離を詰め、体重を乗せて腹に槍先をめり込ませる。
「グぁッ!」
やられた!
もう一方の小鬼が振ってきた棍棒が俺の頬にまともに当たった。
口内に血の味。
視界が揺れる。
突き刺さったままの槍を手放し、後ろに下がりながら、なんとか大鉈を抜く。
棍棒を振りかぶった小鬼が迫ってくる。
くそ。視界が揺れて定まらない。
相打ち覚悟で大鉈を振り下ろす。
「いっづ!」
肩に重い棍棒の一撃を貰う。
対する俺の大ナタは、小鬼の鎖骨から胸の半ばまでの範囲を断ち斬っていた。
クソ。
クソが!
顔が滅茶苦茶痛い。
小鬼の棍棒は棘がついた凶器だったみたいだ。
「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・!」
注意深く辺りを見回す。
もう新たな小鬼はいないようだ。
致命傷を負った小鬼共が周囲に転がっている。
もう動けない様子だが、まだ息がある奴が多い。
一撃を貰った方の肩の腕を、慎重にゆっくりと回してみた。
・・・・・・骨に異常はなさそうだ。
後は消化試合。
油断せず、きっちりとどめを刺していく。
『階位が上がりました。』
千錠 誠
階位8→10
生命力15→19
魔力9000/18000
筋力15→20
技量13→16
精神13→15
持久力16→19
速さ10→12
[スキル]
鑑定1
槍1
剣1
[固有スキル]
異次元操作
再発生
これだけ殺しても2つか。
段々と階位が上がり辛くなっている気がするな。
それはそうと、スキルに槍と剣が表示されている。
鉈は剣扱いってことか。
途中からスムーズに武器を扱えていた・・・・・・ような気がする。
はぁ。それにしても、顔が痛い。
・・・・・・今日は帰るか。
近くに鎮座する大岩の裏へ身を隠すように入り、黒渦を出して腕を伸ばす。
無事とは言えないが、生きての帰還だ。
「っいってぇ・・・・・・」
帰還して早々、鏡を見て傷の具合を確かめる。
頬に穴が2つ空いていた。
こりゃ痛い訳だわ・・・・・・。
前回同様、血を拭き、消毒液をぶっかけて、ガーゼを押し当ててテーピングしておく。
もう口を動かすだけで痛い。
飯を食うのはやめておこう。
同じく打撃を鎖骨当たりに受けていたが、そっちの方は内出血で痣になってる位なので放置することにした。
・・・・・・隣からなんか女と男の喘ぎ声がする。
「はああぁぁ・・・・・・」
クソデカ溜息を吐く。
簡便して欲しい。
耳栓でも買ってくるか。
家を出て歩道を歩く。
冬の寒さが頬の傷にしみる。
近くの24時間営業のドラッグストアまで、徒歩10分程度の距離である。
耳栓を買うついでに、痛み止めと少なくなった消毒液も購入する。
買い物袋を下げ、夕方の帰り道を歩く。
ふと、女性の叫び声が前方から聞こえてくきた。
「誰かそいつ捕まえてっ!引ったくりっ!!」
スクーターに乗った黒づくめの男が、バックを脇に抱え、猛スピードでこっちの方向へ走行してくる。
状況的に十中八九引ったくり犯はコイツだろう。
すれ違う直前まで普通に歩き、横を通り過ぎるタイミングで蹴りを入れてやる。
俺の蹴りが相手の横腹にヒット。
スクーターは横倒しになり、乗っていた男が面白いように道路を滑空していく。
想定以上に引ったくり男が俺の蹴りで吹っ飛んで焦る。
・・・・・・死んでいないよな?
なんか呻き声を上げて立ち上がろうとしてるし、大丈夫だということにする。
正面から被害者と思わしき女性が凄い速さで走ってくる。
顔立ちの整った少しきつめの美人だ。
店員:市川 美織
階位?
お礼でも言われるかと思ったが、そのまま俺の横を駆け抜けていく。
「てめぇ!ふざけやがって!このっ!このっ!このぉッ!」
女はひったくり犯の元に駆け寄ると、もの凄い勢いでバックを奪取。
あろうことか、よろけている男に蹴りを入れたりストンピングをかましている。
・・・・・・よし。
あとの事は彼女に任せよう。
ここにいては傷が染みるしな。
俺は近くで野次馬をしていたおばさんに警察と救急車の連絡をお願いし、無関係を装ってそのまま立ち去った。
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