この恋は卒業できないけれど

第1話

爽やかな春風が吹く。

賞状筒のふたを取る。

ぽん、と間抜けな音がして二十四時間が、三百六十五日が、三年間が、開封されて飛び出した。

滑稽で、間抜けで、愛おしい匂い。

あの日のことを思い出す。


きみと出会った日のこと、覚えている。

入学式は、あいにくの雨だった。

きみは楽しそうに雨粒を散らしてはしゃいでいたね。

黒髪が猫の尾のように風と遊び、無邪気に踊る。

そんな姿に恋したんだ。


きみは軽音部だった。

文化祭ではギターを鳴らして会場を盛り上げた。

体育祭のバスケの試合。惜しかった。

二位が悔しいと泣いていたね。

卒業旅行のテーマパーク。

友だちとおそろいのカチューシャをつけて、満面の笑顔。

楽しそうで本当によかった。


きみは僕を知らないと思う。

一度も話したことがないから。

だから告白はしない。恋心は、自然になくなるまでとっておく。


三年間、きみに恋をして幸せでした。

きみは幸せでしたか?

幸せだと信じています。

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