それでも好きはここにある

第1話

きみに教えてもらった、あの子が好きなもの。


大つぶイチゴのショートケーキ。

大きなリボンの麦わら帽子。

くるぶし丈のフレアスカート。


かわいいと、甘いと、か弱いをたっぷりまぶした、砂糖菓子みたいなあの子。

あの子のかわいさは本物だ。

同じクラスの女子は、みんな「あの子には敵わない」って口をそろえる。

先輩から嫌がらせをされても、あの子は気にしない。

ふわふわのセミロングが、すべての悪意をはね返して、なかったことにする。


あの子は、かわいくて強い。

だから、きみが好きになる気持ちはわかる。


仕方ない。

仕方ないんだ。

でも、つらくて苦しいよ。


ねえ、こっち向いてよ。一瞬でいいから。

廊下で名前を呼んだときとか、帰り道にすれ違ったときでいい。

砂糖ひとつぶの感情でいいから、私のことを考えてよ。


スカートを一センチ短くするときの緊張感とか。

前髪を長く切り過ぎたときの、ゆううつな朝とか。

あの感覚が懐かしくなったのはいつからだろう。

きみが反応してくれないのなら、ドキドキする必要はないから。

恋心をどこかに置いてきてしまったみたいだ。


「あ」


見慣れた大きな背中が視界に入る。

また少し、身長が伸びた。

制服の裾がちょっとよれてる。

後ろ髪がはねて、かわいい。


きみがだれを好きでもいいよ。

私がきみをあきらめられるまで、好きでいるよ。


恋心はずっと私の中にある。

見ないフリして、なくそうとしても、ずっといる。

それが好きってことだから。

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