第四回

 今日もほとんど変わりはない。変わりはないというのもまた違う。何が違うのか。何も違わないのかも知れない。重要なのはきっと、過ぎた日々と今の対比ではないし、対比と言うのとも違う。そもそも対にするものでもない。今の自分と過去の自分を比べてみるとはよく言うが。過去の自分とは何だったのか。今の自分は何であり得るのか。わたしの外の世界ではわたしは何であり得るのか。そもそもわたしであり得るのか。わたしなのか。わたしはあるのか。なくてもいいのではないのか。きっとないのだ。あったらどうする。あったら。それならそれでいい。わたしはここに居る。わたしはここにいる。あなたはどこに居るのか。あなたはどこにいるのか。そこに居るのか。そこにいるのか。居ないのならわたしは何か言うのか動くのか。動く。言葉はない。言葉は消えたのか。消えた。消えてなどいない。わたしの世界からは消えたし、わたしの世界からは消えていない。あなたは消えたのか。あなたは消えた。あなたは消えていないのか。あなたは消えていない。わたしのこと?あなたのこと!わたしのことではない、と、あなたはそう言った。真理。そんなものはどうでもいい。本質。現実。時間!。時間だ。止まらない時間。消えた時間。誰かの時間が消えた。あったよ。あなたがそう言って大きな木製の扉の陰から走ってくる。そう言うとあなたは抱きしめた。わたしではない。あなたではない。わたしのことではない。わたしのことではない。何も抱きしめてはいない。ぽかぽかする。スヌーピー。あのマフラー。あなたは抱きしめていると言葉にしてはいないし声にもだしていないけれど、そう言う声がする。わたしは何も抱きしめられてなどいない。痛くない。痒くない。もっと、痛いから、痒いから。もっと、痛くないから、痒くないから。わたしはわたしではない。そうなの?わたしはあなたではない、と、あなたが言った。あなたは抱きしめているの?何も話したくない、と、あなたは手の位置をすこし上にずらした。わたしも昔あなたに言った。わたしは忘れていた。忘れてしまう。忘れてしまわない。忘れてもいい。そのくらいでいい。


 シロミに餌をやって台所で手を洗っていると、シロミが蝶を追い回している場面が浮かんできて、廊下に出ると、わぁーっと暑さがこびりついてくる。蝶は居ないかと庭を見渡してみるが見当たらない。上を向いてもいない。横着をしていると何も見えないのは端からわかっている、実際、興味があるのだろうか、と、縁側に座って、目の前の金柑の木を眺めている。金柑のみは子供の頃、よく食べていた。よく食べていたと言っても、萩原さんという祖母の友人が来て、祖母と談笑しているときだけだった。木からもぎ取って、水でさあーっと洗って水気を軽く拭き取ったら口に入れる。甘酸っぱいというのとはまた違う。甘くて酸っぱいのだ。いや、それなら甘酸っぱいで良いじゃないですかあ。と言う人もいると思うが、良くない。良いわけがないから甘酸っぱいなどとは言わないのである。

 シロミが猫用の出入り口から頭を出して、庭に出てきた。きっと蝶が出てくる!と、くだらない小説にありそうな考えが浮かんできて、嫌だ嫌だと小言を言う、シロミの後をついて行くことにして立ち上がり、たしか、朝顔があるところに居るのかもしれないと自分の車の後を通って、家の東側にある鉢が大雑把に並べてある場所まで歩いている。


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椅子の緑深くへ ToKi @Tk1985

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