エピローグ 最初の香り

夜の街には、音がない。

灯りすら滲むほどに湿った闇の中で、

ただ、グラスの中に漂う“香り”だけが、

真実を語っていた。


その香りは、甘くて、苦くて、どこか切なかった。

まるで、

誰かを強く愛しすぎた人間の、

記憶の底に残る“最後の感情”のような。


《Nocturne》という名のそのバーは、

いつだって静かだった。

扉を開けば、誰かが待っているわけじゃない。

けれど、誰かの“終わり”が、必ずそこに置かれていた。


カウンターの奥に並ぶ瓶の列。

そのどれもが、語られることのない物語だった。


そして――


黒猫が一匹、

カウンターの下からこちらを見ている。


金色の瞳には、なにひとつ映っていない。

けれど、すべてを知っているような静けさで、

あなたの一歩を心より、

待っている。


さあ、

今夜もまた、新しい“香り”がグラスに注がれる。


それは

どんな罪でできているのだろう。


そして、この物語は、罪の香りから始まり、償いの余韻で終わる。

そして今日も、どこかの夜に、新たなラベルが貼られているかもしれない。


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血に名前を貼る夜 ピコ @Beika877

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