初仕事
無邪気な棘
初仕事
ブリーフィングルームで、私は部長とミーティングした。
「つまりデータは奴の貸金庫の中ってわけか。」
部長はそっと、ため息をついた。
「はい。どうすべきかですよね。しかも問題が。」
私は部屋の外、ブラインドの隙間から見えるオフィスに目をやりながら、部長に話した。
「問題とは?」
部長は何か不可解なものを見るかの様な表情で答えた。私は部長に説明した。
「その貸金庫のロックシステムは網膜認証なんです。ですから、ターゲット自身が必要になります。」
私が説明を終えると部長は徐ろに席を立ち、部屋のドアを開けると、手招きして誰かを呼んだ。
「この野郎、大使のくせに、ペドフィリア(小児性愛症)なんだってな。」
部長がターゲットの情報が記された書類を指差した。
私はゆっくりと頷いた。
すると、ブリーフィングルームに、誰かがやって来た。部長が手招きして呼び寄せたその人物。
女の子だ。小さな女の子。歳は10歳ほど。薄いピンク色のワンピースに、赤い小さな靴。黒くて長い真っ直ぐな髪。透き通る様な肌。光る瞳。
「やぁ、私の天使。初めてのお仕事だよ。」
私は驚いた。まさか子供を囮に使うつもりか?
「あの、どうしろと?」
私がそう言うと部長は静かに答えた。
「ターゲットは週末にレストランに現れるだろ?この子をレストランの入り口の前に立たせておけ。後はこの子がどうにかする。」
私は不安に駆られた。こんな子供に何が出来るというのか。
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作戦当日。私はレストランの側の路肩に車を停車させた。助手席には、例の女の子が座っている。
「ねぇ、君。名前は?」
女の子は何も答えなかった。すると、女の子は徐ろに車を降りて行く。
20分ほど経過した。レストランからターゲットが出て来た。間違いない、大使だ。
大使は女の子に気付くと、二人の部下、或いは、ボディーガードと思しき、屈強な男達に何かを伝えている。その声は、女の子に持たせた小型集音器で聞こえてくる。
「君たち悪いが、この後、大使館ではなくホテルに行ってくれないかね。」
大使はそう言うと女の子を黒塗りの高級車の後の席に乗せた。
車がゆっくりと発進する。私は後を着けた。成る程、ターゲットは筋金入りのペドフィリアだ。
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高級車がホテルに着くと、車から大使と女の子が降りた。
二人の屈強な男達は車の中で待機している。
「部長、何考えてんだ。本当にあんな子供で大丈夫なんだろうな?」
私は少しだけ冷や汗を流した。するとマイクの音が聞こえてきた。
「さぁ、部屋に着いた。お嬢ちゃん、お入り。」
大使の声だ。
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初仕事の事は覚えているわ。超簡単だった。
ターゲットがジャケットを脱いで、私の方を振り向いた時に、私はターゲットのでっぷり太った脇腹に、隠してたナイフを突き立てた。
ターゲットの動きが止まって、崩れ落ちたから、そのまま馬乗りになって、身体中を穴だらけにしたの。
何度も何度もナイフを振り下ろしてね。真っ赤。とっても真っ赤だったわ。
「わぁ、綺麗ね。」
私は少しうっとりしながら、ターゲットの顔面から、鍵を抉り出した。念のため、両方とも。
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女の子がホテルから出て来た。そして、車に気付くと、再び助手席に乗り込んだ。何か手にもってる。
私は車を発進させた。
車内は暗くて良く確認できなかったが、街の明かりに時々照らされる度に、女の子の服が、血まみれである事が分かった。
すると女の子は、持参してきたパスタを入れる瓶の中に、手にもっている何かを入れた。瓶には液体らしきものが入っており、その何かを液体に浸した。
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翌日、私はブリーフィングルームに呼ばれた。
部屋に入ると、部長と、作戦三課の主任が同席していた。
「部長、鍵は?」
主任が言う。
すると、部長はゆっくりと立ち上がり、部屋のドアを開けると、手招きして、誰かを呼んだ。例の女の子だ。
女の子は部屋に入ると昨夜何かを入れたパスタの瓶を部長に渡した。部長は静かに席に着くと、主任に渡した。
「鍵だ、受け取りたまえ。」
あぁ、何という事だ。私は背筋が凍った。ホルマリンの中に漬けられたターゲットの左右の眼球が、私を見ている。
主任が言った。
「大したもんだよ、本物の悪魔だな。」
そう言うと主任は、瓶をもって部屋を後にした。
部長は女の子を、まるで父親の様にキツく抱きしめた。そして、目一杯の愛情を女の子に与えた。
「私の可愛い天使、良くやった、良くやった。」
と。
女の子は無邪気に笑った。
初仕事 無邪気な棘 @mujakinatoge
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