灰色の春

功琉偉つばさ

僕は春が嫌いだ。

 僕は春が嫌いだ。


 あの少しカビっぽい、埃っぽい空気、生ぬるい風、雪が溶けて出てきたクチャクチャの落ち葉。まだ少し肌寒い中途半端な気温。


 春と聞くだけで憂鬱になる。


 なにかの終わり、なにかの始まり。春にはそんなことがたくさん詰まっている。


 春は決して青くない。僕はどちらかと言うと、灰色だと思う。桜のピンクでもなければ、青春の青でもない。


 なんの灰色かと言われると、溶けた雪の灰色。曇り空の、花粉が覆う空の灰色だ。


◇◆◇


 春。高校生の僕はまた一つ学年が上がる。いつの間にか今年も春がやってきた。いっそのこと、冬がずっと続けばいいのに。


 でも、今年の春は結構せっかちで、すぐに暖かく、生ぬるい風を吹かせながらやってきた。まるで、もっと大人になりなさいと僕達に言うかのように。


 僕はまだ、他の人はどうなのか知らないけど、無邪気な子どもでいたい。おとなになるのが怖い。


 学年が上がっていくに連れ、責任感が募っていくはずが、そんな重みを感じていない僕が怖い。いつの間にか春が何回も何回もやってきて大人になって、いつの間にか死んでいそうだ。


 どうあがいても、春が何回来ても、僕が憧れた先輩みたいには到底なれない。


 いつも考えてしまう。自分は本当にあの先輩みたいになれているのか。かっこよくあれているか。


 答えはもちろん、ノーだ。


 このままじゃ世界はどんどん負の方向へと移行していく。


 そうも考えてしまう。


 それくらい僕は春が嫌いだ。


◇◆◇


 ああ、今年も灰色の春がやってきた。


 いつまでたっても慣れないこの埃っぽい空気。このへんに嫌な緊張感。いつも慣れないこと、初めてのことをすると、鼻の奥をくすぐられるような感じに陥る。


 新学期の教科書を買ったり、入学したり、新しい友達ができたり、進級したり……


 本当に嫌いだ。


 春なんてなく無くなってしまえばいいのに…… 


 でも、そんなことは不可能だ。ただ時間がすぎるのを待つしかない。そう、春は一瞬だ。一瞬で夏になる。それまで耐え忍べばいいんだ。


 でも、やっぱり夏になると、春という一年の四分の一を無駄にした気持ちになる。


 ああ、だからほんっとうに春が嫌いだ。


 灰色の春。今年も僕は迎える。それは変えることのできない事実。少しでも彩りの春になるよう、春をちょっとでいいから過ごしてみようかな。


◇◆◇


 今年も春がやってきた。僕は今日もいつもと変わらず灰色の空の下、明日へと一歩を踏み出す。

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