第14話 褒美
ルドハをボコして、それから暫くした時の事。
いつもの通りにウーとリムの講習を眺めている俺。どうやら骨格の形成は上達しているらしく、今度はもっと細かい造形をする為に、細胞変換という技術を教えている最中らしい。
要はスライムの粘液を魔力によって変質させ、そこからタンパク質や骨質…まではいかないが、あくまで骨に似た物質、肉に似た物質に変換させる技術だ。
これにより、身体形成の質は格段に上がる。その上、人型に限らず体内を好き勝手に変質させることができれば、衝撃を完全吸収したり、更に極めれば体内で衝撃を循環させて相手に跳ね返すことも可能だとか。
ウーはその極地に達しているらしく、試しに軽く殴れば、俺の拳の威力の…体感五倍ほどの衝撃が返ってきた。
「成程、循環だけでなく加速もさせられるのか」
「ぁっえ、い、一回で理解できたんです…か?」
「大方一回転につき二倍、二回転で三倍といったところか? しかし等倍で跳ね返せるとはいえ限度があるだろう」
「……最大で七倍が限界です。それ以上は身体が弾けちゃいます」
「それでも中々に有用な技術だ」
リムが覚えられた場合、他のスライムを増やして技術を拡散させるのも良いかもしれん。普通に戦力の増強になる。
「ふむ…応用はできる、か?」
「え?」
「…ウー。お前、どんな場合でも衝撃の吸収は可能か?」
「は、はい。一応、私が知覚できた攻撃なら対処は可能ですが…」
「腹に一発、攻撃してみてくれ」
「え、えぇ…?」
そう言うなら…とウーは体内を流動させながら拳を構える。
短い呼吸と共に放たれた一撃を、俺は完全に筋肉を緩めた腹筋で迎えた。
「___ふっ!」
パァンッ! とウーの肩が弾け飛んだ。おい、対処は。
「…へ?」
「っち、失敗か。少し残った」
皮膚、肉、…そしてその衝撃が内臓に届く前に、完全に緩みきった腹筋の緩急を調整し、衝撃を肩に、そして腕から拳に乗せ、そのまま放つ。
完全思い付きでやった事だが、極めれば中々に有効な手となるな。
「す、凄いですね…一回見ただけで、もう応用ができるなんて」
「偶然思い付いただけだ。そう褒めるものではない。…しかし、お前の称賛は裏がないから素直に受け取れるな」
「え、えぇ!? そ、そんなことは」
「リムも世話になったことだ。俺にできることならばなんでもしてやるが」
_________________
え、えぇ? そ、そんな事急に言われても…!
内心も外面も焦っている私とは裏腹に、目の前で佇むヒバリ様はじっと私を見つめてくる。
ま、前から思ってましたけど顔が良すぎませんか…!? いや、スライムである私が言うのもなんですけど、このダンジョンの人達全員顔の造形が整い過ぎて私には眩しく見えるんですよ…!
そ、そんな、なんでもしてやるって言われても…!
「…まだか?」
「ひゃい! も、もう少しお待ちを!」
ち、近いですヒバリ様ァ! 節度を守りましょうよォ!?
な、なんでも良いん…ですよね?
「な、なら…」
「…本当にこれで良いんだな?」
「は、はい!」
「む…なら良いが…」
私の膝上で、ヒバリ様が唸る。
なんやかんや、ヒバリ様もリラックスしているようで、私の胸元に後頭部を預けて目を瞑っている。
軽くお腹周りを抱きしめても、何も文句もない。逆に大人し過ぎてこのままずっと抱きしめていたいくらい。
前から思ってたんですよね。人の温もりを感じていたいって。
冒険者の血が心地の良い暖かさを持っていると知った時、その血が通う冒険者はどんな温もりなのだろう。
私達スライムは暗くてジメジメした所が好きだから、基本的にひんやりしているけれど、暑い時は暑いし寒い時は寒いと感じる。
私のダンジョンなんて寒すぎる。普段は身を寄せ合って、気分だけでも暖を取っている状態でした。
でも、こうやってヒバリ様を抱きしめていると…凄く、暖かさが直に感じられて、心地が良いんです。
もっと暖かさを感じていたい。少しずつ、私がもっと満足する暖かさに近くなるように、腕に力を込めて…。
「…ぁ」
振動…違う、鼓動。血を運ぶ心臓の鼓動が腕に感じる。
なんて落ち着くリズムなんだろう。私にはないもの、そして私の親友にあったもの。
ずっと感じていたい…。
「…ん」
「…? …!」
ヒバリ様、寝ちゃってる…。
いつもウー様に身体形成を教えている時も、暇になったら椅子に座りながら頬杖付いて寝てたけど…こんな風に寝るのは初めて見る気がします…。
で、でもあれですよね、こんなに密着して寝られてるってことはそれだけ私に気を許して…なわけないですよね。私が何をしようと殺されない確固たる自信があるからですよね…。うぅ、自分で言って悲しくなってきた…。
…綺麗な顔だなぁ。私に普通の人間の顔なんてわからないけれど、ヒバリ様のお顔は綺麗だって思える、宝石を綺麗だって思うように。
それに、お顔以外にも、身体だって。腕や足には筋肉が見えないのに、サラ様を圧倒する膂力を持つ四肢は凄く綺麗に見える。
肌で触れ合うヒバリ様の二の腕は凄く柔らかくて、少し摘んでみるとそれはもう同族とは違った柔らかさと暖かさがあって心地が良い。
少し調子に乗って、お腹周りを直接触ってみたりもする。無駄な肉もなく、かと言って全然肉がないわけじゃないすべすべなお腹はまた触り心地が良い。
というか出会った時から思っていたんですけれど、ヒバリ様の服ってあんまり服として機能してないような…凄いボロボロですけど、着替えがないんでしょうか。
そういえばサラ様も、あの服から着替えてる姿は見たことなかった気がする。もしかして、私のように姿を変形させられる種族以外のマスターは、服を着替えられないのかな…。
…あ、そうだ。変形の応用で服になれたりしないかな。ちょっとやってみよう。
ガワはそのままに、最低限の筋肉と骨を残して中身の大半を抽出。そしてそれをヒバリ様の身体を包むように操作して…。
上半身は…普通に、今のヒバリ様が着ている服を綺麗な状態のを想像して真似よう。そして下半身は、まず下着から………ハッ!
し、下着って事はヒバリ様のアレを包むって事ですよね? む、むむむ無理です! 触ったら殺されちゃいそうな気がします!
下着は無視して、下半身を覆うように…ゆったりとした服がいいかな? あ、でも脚が動かしづらいのはダメだよね…足首だけをキッチリ覆うようにしようかな。
よし、結構サマになってきたと思う。これで着色と、ヒバリ様の服の繊維の肌触りを真似すれば…完成!
____________
…ん? しまった、寝てしまっていたか。
いかんせんこのダンジョンは空調という概念がないもので、丁度良いといえば丁度良いのだがやはり暑さや寒さも時折感じたくなる。そこにウーのようにひんやりした冷たさのある魔物に密着すると、意外と心地の良い冷たさについ意識が沈んでしまっていた。
さて、褒美という形でこうなっていたが、そろそろもう良いだろう。そう立ちあがろうとして…。
「…む?」
…服が変わっている?
一体何故…と思った時、寝る前とは違うウーの感触の違和感に気づいた。
中身が減っている…と言うより、密度が減っている。つまり、この服はウーの身体形成技術の一つか。
なるほど、布の感触と大差ない…いや、完全に布の感触だ。
「すぅ…」
ウーとは完全に切り離されていても維持されるこの布。中々に着心地が良い。
褒美をやったつもりが、さらに貰ってしまったな。
ダンジョン(敵側)無双 @Yorukuro8046
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ダンジョン(敵側)無双の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます