死体の上でダンスする

蒼林 海斗

天下無双、ダンス、布団

「兄ちゃん、天下無双ってどういう意味?」


 弟の無邪気な問いに、少年は指をピンっと立てた。


「世界で一番、サイキョーってことさ」



   ***



 天下あました無双むそうは死体役として地面に寝転がっていた。

 対象者は小肥りの中年男性。歩きスマホをしていたら赤信号に気づかずそのまま直進、車に跳ね飛ばされたようである。


(今回はすぐ入れたからな、トリの降臨まで時間があ――)


 ぎゅむっ。


「オマエ! 性懲りもなくまた憑いているナ! 邪魔だからさっさと出ていケ!」


 横たわる男の背中に、羽を発光させたトリがどこからともなく降り立つ。広げた羽を羽ばたかせながら、鋭い鉤爪を容赦なく男の背中に突き立てた。


「あいてっ、いででででで」


 男の上でトリがダンスするかのように脚を踏み鳴らす。死んだはずの男から呻き声が漏れると、体から少年が飛び出してきた。


「てめー! 人がせっかく死体役演じてたってのに、また追い出しやがって!」

「ふんッ、死後の魂を天国に送るのがワレの役目、オマエもさっさと成仏しロ!」

「あ、おいっ、やめろ!」


 蹴爪を向けてくるトリから逃げ距離を取る少年。


「俺は生前、サイキョーになれなかった。だから死体役で一番になるんだ!」

「何度聞いても意味がわからン」


 トリは首を傾げる。


「だがこんなところで油売ってていいのカ? オマエの弟、もうすぐ死ぬゾ」

「――は?」



   ***



 天下あました無双むそうは兄である。弟にかっこつけたいだけの兄である。

 天下無双てんかむそうなんて御大層な名前をつけられたからには、その名に恥じないサイキョーでかっこいい兄になりたかったのである。


「うぉおおおおおぉおおお!!!」


 少年は走った。今にも飛び降りそうな青年に向かって。


「俺はァ! 天下無双の兄ちゃんだ!」


 青年が宙へ体を投げ出す直前、走る勢いそのままにぶつかり――吸い込まれた。

 落下する肉体に少年の意識が乗る。地面に叩きつけられた時、青年の体は無事だった。少年は青年の体から転がり出た。


「あ゛ー、くそいてェ」

「バカなやつダ。だがそのバカさに敬意を表して褒美をやろウ」


 トリは少年に金ぴかの布団を被せた。


「兄ちゃんかっこよかったか?」


 その声が青年に届くことはない。 

 少年は布団を跳ねのけると「まだまだー!」指をピンっと立てた。



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死体の上でダンスする 蒼林 海斗 @soukairinn

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