一晩泊めた踊り子が、最強の冒険者だった。

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

天下無双の、渡りフラミンゴ

「おひけえなすって」


 冒険者の宿泊施設にもなっている「旅人の酒場」にて、二人組の冒険者が、受付に現れた。

 

 ひとりは、女性である。華奢なボディと扇情的な衣装から、その女性は踊り子だとすぐにわかった。腰に二丁のナイフが。異国の武器なのか、刃が異様に太い。防御も兼ねているのか? それともダンスの演出に使うのかもしれなかった。


 相棒は、太っちょの行商人である。彼は付添人のようだ。あるいは、依頼人か。


「あたしらは、旅の者でござんす。路銀がなく、一晩のメシと布団だけをご所望致したく思います。あたしは渡りのソロ旅一座「フラミンゴ」。名を、ピンキーと申す者。姓はございません」


 中腰姿で、ピンキーなる踊り子が右手を差し出す。


「ソロでございやすか。ご丁寧にありがとうございやす」


「カタギの連れがいやすが、構わないでしょうか?」


「ご心配なく。ここは旅人の宿。ギルド長は、シシマル親分にございます。お連れの方ともども、ごゆっくりおくつろぎください。もうすぐメシの支度もできますゆえ」


 さっそく、夕飯が配られる。


 デカくて硬いパンが一切れ、具だくさんのシチュー、骨付きのラム肉、デザートはバナナ一本のみだ。


 残念ながら、行商人にも同じものを食べてもらうことに。


「おいおい、どういうこった?」

「命がけの旅人に、酒の一杯もねえとは」

「猫のエサかよ」 

 

 さっそく、冒険者たちのグチが耳に飛び込んできた。

 

 黙れ貧乏人ども。これでも、冬を乗り越えてきたのだぞ。


 ここを管理・監督するシシマル親分にとっても、ごちそうである。


 それを、一宿一飯の旅人たちに振る舞うのだ。理由はひとえに、ギルド長としてのプライドである。


 オレも子分として、ヨダレが出るのを我慢してるってのに。


「はーあ、うまそうでんなあ。温かい汁物と肉が出るだけでも、構いまへんわ」

 

 よかった。ピンキーの一座には気に入ってもらえたようだ。

 

「どうも。ご厚情にあずかります」


 テーブルでお辞儀をして、まずは懐から手ぬぐいを取り出す。自分の木匙の脇に、手ぬぐいを置いた。


 まず二人は、シチューで身体を暖めるようだ。


「ピンちゃん。これ、雑穀パンでんなあ」


 行商人が、パサパサのパンに少し不満を漏らした。


「どこも不況でございやす。コメも麦も、飢饉で高くなっておりやすよ」


「ですねえ。せやけど、うまいですわ。シチューに合いまっせ」


「よかったでござんす」


 続いて、ピンキー殿はパンの真ん中だけを食い始めたではないか。

 行商人まで。


「この作法は……」


 シシマル親分の代から忘れられていった、古の冒険者の作法である。


 基本的に、冒険者はパンを二切れ食う必要がある。縁起が悪いからだ。

 

 一切れだけだと、神への供物に等しい。 


 ギルドで宿を借りる冒険者は、殴り込みの際に先陣を切らなければならない。


 神に近づくことは、死に近づくこと。そう考えられていた。


 そのためギルド側も、旅人にパンを二切れを食べさせる義務と器量が求められる。しかも、白パンを。もしケチろうものなら、外でなにを言われるかわからないからだ。


 しかし、かったいパン二つなど、シチューだけでは食いきれない。


 そこで、パンの真ん中だけを食べて、穴を開ける。


 この中に、シチューの具材を詰めてもらうのだ。


 これで、二切れ食ったこととする。


 やはりというか、ピンキー殿はオレに穴を開けたパンを差し出す。


「作法にかなったおかわり、ありがとうございます」


 オレは、シチューを注いでやる。


「ありがとうございます」


 オレが注いだシチューを、ピンキー殿は食べ始めた。

 続いてピンキー殿は、骨付き肉にかじりついて、骨を手ぬぐいに置く。


 旅人の掟として、出されたものはシチュー一滴、パンくず一つすら残してはならない。

 親分であるギルド長のお顔を、汚す行為に当たる。もてなしたのに、残すとは何事だと。


 骨は手ぬぐいにしまって、宿を出ていく際に、わからない場所へ捨てるのだ。

 それが、渡世人のマナーである。


「手厚きおもてなし、ありがとうござんす」


 ピンキー殿が、おじぎをした。


 行商人も「ごちそうさまでしたー」と、お辞儀をする。


「いえ。なんのおかまいもできず」


「とんでもござんせん。おいしゅうござんした」

 

 それを見ていたシシマル親分が、他の冒険者たちに「なんだよ、こいつら」という顔をした。


 冒険者たちも、パンくずを指で集めて食べ直したり、骨をしゃぶりだす。



「客人方! ケンカだ! 相手は、大ガラス盗賊団だ!」


 外からやってきた斥候の言葉に、ピンキー殿が立ち上がる。


「お嬢さん、行商人さんはオイラに任せてくれ。オイラの側においておきゃあ、絶対に殺されることはねえんで」


「お願いします、親分さん」


 ピンキー殿は、外へ飛び出す。


 オレも、後を追った。オレだって、シシマルの子分なんだ!



 だが、大ガラス盗賊団はべらぼうに強かった。


 盗賊団もかなり倒したものの、冒険者たちも三割が犠牲になる。


 オレは、足がすくんでしまった。


 こんな奴らが、敵だなんて。


「ヒャッハ!」


「うわああああ!?」

 

 大ガラスのナイフ使いが、オレを刺しに迫ってきた。まるで、殺しを楽しんでいるみたいに。


 しかし、その刃がオレの腹に届くことはなかった。


 ピンキー殿が、まるで踊りでも踊るかのように、敵の横っ腹にケリを入れたのである。


 その足には、さっきのぶっとい刃のナイフが。


「アイツ! ブラッドダンスのピンキーだ!」

 

 ブラッドダンス……聞いたことがある。


 ケンカにめっぽう強く、二つのナイフを持たせては天下無双。誰にも負けない女の踊り子がいると。


 驚いている盗賊団を、ブラッドダンスは華麗な腰つきで切り捨てていった。腰のキラキラしたヴェールによって、足さばきを読ませない。また、きらめくように磨かれた刀身と、装飾の光によって、相手の視界・視線を潰すのだ。


 その様は、片足立ちのフラミンゴを思わせる。


 大ガラス盗賊団は、全滅した。


「ありがとうございやす! ピンキー殿……あれ?」


 ピンキー殿が、動かない。


 まさか、死んで――。


「ああ、ああ。またやってもうたんですかいな?」


 行商人が、布団を用意する。それも掛け布団のみを。


「ピンキー殿はどうなさったんで?」


「この子な、戦った後とか、立ちながら寝ますねん。それこそフラミンゴみたいに」


「もしかして、ブラッドダンスの戦い方は、そんなデメリットがあるとか?」

 

「ちゃいまんがな。ただの、炭水化物スパイクですわー」

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一晩泊めた踊り子が、最強の冒険者だった。 椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞 @meshitero2

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