約束を破ってごめんなさい!!!

藤泉都理

約束を破ってごめんなさい!!!




 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 召喚魔法に成功して、僕よりも先生よりもすごく大きく強くかっこいい銀の竜に乗って、先生の元に飛翔する夢。

 すごいですね。

 上瞼が少し厚くて半眼で不愛想で背が高い先生が初めて僕に笑いかけてくれる夢。

 今はまだ咲いていない桜の花びらが一斉に舞い散るのだ。

 嬉しくて嬉しくて嬉しくて。

 飛び跳ねながら叫んだところでいつも目が覚める。




 魔法学校幼等部さくら組に所属している少年のりゅうは夢を見て目を覚ました直後、いつも頬を膨らませてぶすくれる。

 9回だ。9回も見ているんだぞ。同じ夢を9回もだ。

 そろそろ正夢にしてくれたっていいだろう。

 枕元に置いてある魔法の杖を手に取って召喚魔法を唱えるも何も出て来ない現状に、次いで泣きべそをかいた。


「今日。晃大こうた先生。行っちゃうのに」


 もう学校に来てくれないのに。

 もう、会う事はできないのに。











 その他大勢と同じように見られたくない。

 特別な人として見られたい。


 颯が所属する魔法学校幼等部さくら組に教育実習生の青年、晃大が来たのは一か月前。ちらほらと梅の花が咲き始める寒い季節であった。

 かっこいいと目を輝かせて突進するクラスメイトも居れば、こわいと遠巻きに見つめるクラスメイトも居る中、颯はただじっと晃大を凝視する事しかできなかった。

 ドキドキドキドキ。

 一気に血が集まってしまったのだろうか。

 心臓が激しく鼓動し、頬に紅の色と熱が増す。

 心臓と頬の二か所に集まったせいで血が足りないと呼吸が大きく乱れる。

 苦しかった。

 颯は何も言えずに晃大を凝視する事しかできないままでいると、あの先生怖いねと話しかけて来た友達のそうが、ぎょっと目を大きく見開いてのち、ぐいぐいと強引に颯を保健室へと連れ出したのであった。

 頬だけではなく、顔全部が真っ赤っかだったそうだ。

 高熱を弾き出していたらしいその日は、両親が迎えに来て病院に連れて行かれては家に戻り、ベッドの中で部屋の天井を一点に見つめる事しかできなかった。

 目を瞑りなさいと言われたが、どうしてもそうする事ができなかった。


 話しかけたい。でも、話しかけたいので無言で凝視する。

 話しかけてほしい。でも、うまく言葉を返す事ができずそっぽを向いて駆け走る事しかできない。

 おかげでクラスメイトの中で、颯は晃大が気に喰わないらしいと不名誉な噂が立ってしまい、晃大を気に入っているクラスメイトからは晃大の長所を長々とでかでかと聞かされ、晃大を気に入っていないクラスメイトからは晃大の短所を長々とでかでかと聞かされて、そんな事知ってるやいと双方のクラスメイトに怒鳴り散らして、先生に怒鳴っちゃだめですよだと叱られる始末。


「違う。話しかけたいんだもん。話しかけられないだけだもん。うう。みんなのばか。晃大先生以外。みんな嫌いだ」

「えええええ~。俺も? 俺も嫌いなの?」

「聰は嫌いじゃない」

「よかった!」


 園庭の隅っこで膝を抱えていた颯は、傍で地面に魔法の杖で召喚魔法陣を描いていてはかわいい雪だるまを召喚する聰に、やっぱり嫌いだと言った。

 聰は天才だった。

 幼等部で唯一召喚魔法を成功させた天才である。

 召喚魔法は二通りある。

 聰のように召喚魔法陣を描いて異界に棲む生物を召喚する方法。

 そして、魔法の杖を持って召喚魔法の呪文を唱えて異界に棲む生物を召喚する方法。

 聰と同じ方法で召喚したくないと、颯はもう一つの方法で召喚を成功させようとするも未だに成功ならず。

 初等部で習う事だからと両親に慰められるも納得できず。

 何度も何度も何度も挑戦しては失敗を繰り返す日々を過ごして、今日。

 晃大が教育実習を終える日が来てしまったのである。

 結局この日までまともに話しかける事も、話し返す事もできず。

 召喚魔法を成功させて、特別な生徒として見られたいという望みも叶えられず。


(だからせめて、)




「せ。こうた。せんせい」

「何ですか? 颯さん」

「ん」


 颯は桜色の長方形の箱を晃大に無言で押し付けては、晃大が受け取るや否や駆け出した。

 まだうまく話す事はできなかったので、手紙にして渡す事にしたのだ。

 晃大の大好物であるつぶつぶのもち米とつぶ餡の桜餅と一緒に。






(絶対絶対ぜえったい! 召喚魔法を成功させて会いに行くから待っていてね!)






 一か月後。


 幼等部から初等部に颯は思いもかけず、晃大と会う事になってしまった。

 晃大は初等部の薬学の先生だったのだ。


「よかったね。颯」


 バッチコン。

 両目でウインクをする聰から飛び出した二つの星を額に受けてのち、颯は涙目になりながらよくないけどよかったと薬学の教科書を強く顔に押し付けるのであった。




(銀色の巨大な竜に乗って先生に会いに行きますって手紙に書いたのに。話す事もできないし、話し返す事もできないし、約束も守れない子だって。晃大先生に嫌われちゃうよ)




 空気を読んでいるのか読んでいないのか。

 聰に連れ回されては晃大に突進してその場に踏ん張って聰と晃大のやり取りを黙って見続ける事、九十九回目。

 漸く、自分からも話しかけられるようになる颯が最初に発した言葉は、約束を破ってごめんなさいであり、その際に晃大に見せつけたのは、成長してからは赤面するしかない泣き喚き散らす姿であった。






「すごくまじめな子だって私は感心しましたよ」

「もうその話は止めてください。晃大先生」

「申し訳ありません。お詫び、と言ってはなんですが、桜餅はいかがですか? 新しい店で桜餅を見つけまして。聰さんの分もありますのでお二人で食べてください」

「………ありがとうございます」


(ばかばかばかばか僕のばか!!! 何で一緒に食べましょうって言えないんだよもうそろそろ次のステップに進めよもう!!! 聰の図々しさを見習えよもう!!!)


「では失礼します」

「はい」


(うええええ~~~。僕のばかたれ~~~。桜餅しか召喚できないしも~~~)











(2025.3.17)



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約束を破ってごめんなさい!!! 藤泉都理 @fujitori

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