これで、9回目

呂兎来 弥欷助(呂彪 弥欷助)

これで、9回目

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。数えるのをやめよう、やめようと思っていても、なぜか数えてしまう夢。

 何となく、感じているのだ。

 10回目のときは──と。


 苦しさに溺れるような夢は、戒めのような気がしている。私は罪人だ。自身は両親から様々なものを享受しておきながら、両親が遺したこの城を愛することができなかった。


 あの夢を見た日は、必ず思い出す。恐らく、苦しさが似ているからだ。


 18歳になる直前に、両親は事故で突然逝去した。

貊羅ハクラ様、ご結婚を」

 女官長は悲しみに暮れる私に、そう現実を突きつけた。

 両親は実に色んなことに寛容だった。両親もまだ若かったからかもしれない。私も城の継承は、まだまだ先のことだと──の未来だと、どこか他人事だったのだ。


 女官長の判断は、正しかっただろう。懸命な判断だっただろう。自由奔放な城のひとり息子に、しっかりと自覚を持たせなくてはと、現実を突きつけるのは。


 けれど、甘えて育った私には、すべてを一気には抱えきれなかったのだ。受け止めきれなかったのだ。


 身分を忘れられる恋人に──身分を隠していた恋人に、駆け落ちを迫った。彼女はひどく驚き、

「国を捨てるような人とは、一緒になれません」

 と私を叱咤した。そうして、

「あなたは、きちんとした役割を持っている人です。戻って『王』になってください」

 と、私を突き放した。


 両親を失った悲しみと、恋人を失った悲しみに、私は心も失ったのだろう。城に戻った私は、女官長に結婚の条件をひとつだけ出した。

「『さくら』という名の方となら、結婚をする」




 あの夢で苦しむ度に思い出す。

 だから、数えるのをやめられない。


 両親が健在していたときは幸せだったのにと、お門違いな思いを持っていたと気づかされたのだ。

 裕福な家庭で、ぬくぬくと温室育ちだったのだと、思い知らされたのだ。


 両親の愛した城を、注いでくれた愛を、蔑ろにしてきたのだと打ちのめされる。


 苦しみにもがき、溺れるようなあの夢は、私の罪悪感なのかもしれない。だが、それで両親にも、私がしてきたことにも報いられるのであれば、この生を差し出すことに迷いはない。


 私は待っているのかもしれない。

 10回目の、そのときを。

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これで、9回目 呂兎来 弥欷助(呂彪 弥欷助) @mikiske-n

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