ハレの日的計画経済
加賀倉 創作【FÅ¢(¡<i)TΛ§】
経済! 経済! 経済!
——二〇XX年 三月十四日
内閣府の経済財政
羽生は、会議初参加にして、議長である
「私の経済再生案は……〈ハレの日的計画経済〉です」
……
……。
十人は沈黙したまま、首を傾げる。
「えーっと、ちょっと意味不明でしたよね。説明します」
……
……。
十人は皆、数々の突飛な経済学理論で名を馳せている羽生を信頼してはいる様子で、こくり、と深く
「どうも。では突然ですが……皆さん、最近でいうと、ハレの日は、どんなものがありましたかね? あ、どんどんあげていってもらえると嬉しいです」
羽生はそう尋ねる。
「
「ああ、ですな。国民は、あれの由来が極めて
「「「「「「がはははは!」」」」」」
参加者の過半数が下品に笑った。
「ええ、そうでしたね。他には、どうでしょう?」
羽生は質問を続ける。
「バレンタイン。だな? 私は
財務大臣が自慢げに語る。
「いや、
経産大臣が自信満々に訂正する。
「プププ……おっと失礼。『ゴディバ』、ですね……」
某お菓子メーカーの社長が、嘲笑うように再訂正する。
「英語発音なら、ゴダイヴァ、でいいのでは? 表記揺れ的な問題で揚げ足取りするのは賢明とは思えませ——」
外務大臣が、今度は英語のレクチャーを始めようとするが……
「おぅい! 君たち、なんの話をしているのだね? なになにバレンティン? あの
話も、脱線してしまいそうだ。
羽生は、すかさず口を挟む。
「えーっと、総理、野球の話ではありません。で、話を戻しますね? つまり何が言いたいかというと……世の中では、ハレの日、つまりは特別な日があれば、ちょっとした特別な物が売れます。節分の太巻き然り、バレンタインデーのチョコレート然り。他にも最近では、ひな祭り、卒業式、今日でいうとホワイトデーですね。そこでです、こんなふうに考えてみるのはどうでしょうか。特別な日を設けまくることで、消費者が財布の紐を緩ませる日も増える。ならば、そんな日を次々と増やしていって、ゆくゆくは、一年三六五日全てが特別な日、毎日がパラダイス! そんな状態にしてしまえば、消費の活性化、経済活性化が、見込めるのではないでしょうか? 特別な日の選定は、一つのジャンルに偏り過ぎないように配慮して行うものとし、ラインナップは固定的ではなく、必要に応じて中身を変わるよう、メディアを使って世間を誘導するのもいいです」
……
……パチ
パチパチ!
パチパチパチパチ‼︎‼︎
拍手喝采。
「皆さん、ありがとうございます。では現状を把握してみましょう。今あるラインナップは——」
羽生は、ホワイトボード上に、月ごとの〈ハレの日〉を、スラスラと書き始めた。
¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ
一月 正月、成人の日
二月 節分、バレンタイン
三月 ひな祭り、卒業式、ホワイトデー、四月にかけてイースター
四月 入学式、入社式、花見、エイプリルフール
五月 ゴールデンウォーク、母の日、子供の日
六月 梅雨、父の日
七月 七夕
八月 夏祭り、花火大会、海開き
九月 月見、敬老の日、シルバーウィーク
十月 運動会、ハロウィン、紅葉狩り
十一月 七五三、勤労感謝の日(年末馬車馬暗示)
十二月 クリスマス、大晦日、年越し
¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ¡ⅰ
「ざっと、こんな感じでしょうか? では、ここでちょっと、新しい〈ハレの日〉候補でも、あげてみませんかね?」
……
……
……。
誰も挙手しない。
発言しない。
((((政腐たる所以ッ!))))
「えーっと……では、まず私の案を。例えば、時たま訪れる三連休を、〈ブロンズウィーク〉なるものにしてはどうでしょうか? もちろん、五月のゴールデンウィークや九月のシルバーウィークに
……
……パチ
パチパチ!
パチパチパチパチ‼︎‼︎
拍手喝采。
((((皆、沈黙のイエスマンッ!))))
「では次はぜひ皆さん、何か案を——」
羽生は恐る恐る尋ねる。
……
……。
十人は沈黙したまま、首を傾げる。
((((これはひどいッ!))))
「わかりました。ではもう少し私から案を。それから……七月が思ったよりも寂しいですね。ラッキーナンバーの【7】、ですよね? でしたら……七月自体を、〈ラッキーマンス〉などとしてみてはどうでしょうか?」
……
……。
!
((((反応ありッ!))))
「ほぉ、つまりはどういうことだ?」
総理が、食いついた。
それもそのはず、総理は……
パチンカス。
【7】という数字が、だーいすきである。
「例えば、七月十七日や七月二十七日の数字の並びを思い浮かべてみてください。【7・1・7】と【7・2・7】です。スロットで言えば、かなり惜しい組み合わせです。それぞれ、【1が7】に、【2が7】に変われば、大当たりに化けます」
「ほぉ、それで、消費の活性化にどのように結びつけるのだ?」
「いつもは一個売りや二個売りのものを、七個入りにして、バラで買うよりもほんの少し割引してやるんです。そうすれば、飛びつく消費者が出てくるに違いありません。特に、ギャンブル好きな人間には楽しいイベントになるでしょう」
「なるほど、それはいい思いつきだ! 私は全国の小売業大手にコネが五万とある、今度掛け合ってみよう……あ、それで私もいいことを思いついたぞ!」
「おっ、さすがです総理。いいことっていうのは、なんです?」
「七月七日の朝七時、あるいは夜七時に、大掛かりなタイムセールを打ち出す風潮を作れたら、いいんじゃないのか?」
「なるほど。総理、それは名案ですね。それに加えて、あとは七時前後の時間帯にばかり来客が偏らないような工夫ができさえすれば、大きな経済効果を生み出せるやもしれません」
「うむ、うむ。なんだか楽しくなってきたぞ! 名付けるなら……【7・7・7】、エンジェルナンバーだから、〈天使の日〉なんてのはどうだ?」
「おお! 素晴らしい響きです、総理。この調子で、一年三六五日を全て、ハレの日に変えてしまいましょう!!」
総理はなんやかんやでノリノリだが、他の者は依然、
彼らに任せていて、この国の経済再生は……叶うのか!?
〈遺憾〉
【作者による補足】
いくら国民の間で消費を加速して経済を回すと言っても、マネーサプライ(またの名をマネーストック)——金融機関と中央政府を除いた、国内の経済主体が保有する通貨の総量——が増えて、かつその偏りが解消されないことには、本作で夢想したような経済再生は叶うはずもない。
ハレの日的計画経済 加賀倉 創作【FÅ¢(¡<i)TΛ§】 @sousakukagakura
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