10回目は来なかった

猫月九日

第1話

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 初めてあの夢を見たのは幼稚園の頃。さすがに内容は全然覚えていないけれど、とても楽しかったことだけは覚えている。


 2回目に見たのは、小学校低学年。すぐにあの夢だと気がつくことができた。場所は見たことのない原っぱのような場所だった。前と同じくとても楽しかった。


 3回目、これも小学校低学年。今回もすぐにあの夢だとわかった。前と同じく原っぱのような場所だった。そこで誰か知らない人たちと遊んだ。数日後、その人たちがおじいちゃんとおばあちゃんだってことを知った。


 4回目、小学校高学年。親戚の家で見た。おじいちゃんとおばあちゃんはいなくて、代わりにお父さんだった。お父さんとキャッチボールをして遊んだ。ずっとベッドにいたからお父さんと外で遊んだのはこれが初めてだった。


 5回目、中学生になってすぐ。お父さんがお母さんを連れてきた。家族3人で楽しくおままごとをして遊んだ。


 6回目、5回目から1週間後。お父さん、お母さんに加えて、友だちも出てきた。友だちはきょとんとしていた。


 7回目、さらに1週間後。友だちがいなくなっていた。お父さん、お母さんに聞いたら、あの子は先に行って待ってるって言ってた。


 8回目、高校2年生の頃。当時付き合っていた彼女がそこにいた。彼女があなたも早くこっちに来てと誘ってきた。僕も早くそっちに行きたい。


 そして9回目。昨日。とても楽しそうな場所。みんながそこにいた。

 

 優しく迎えてくれた、おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、友だち、彼女……そして……

 久しぶりに会ったみんなは全然変わっていなくて、とても懐かしくなった。


 一方僕はすごく変わってしまった。

 結婚もして、会社に入って一生懸命働いたけれど、今は痩せこけてお腹も減った。

 

 僕も早くあそこに行きたい。あそこは楽しく、なんの不自由もない場所。

 皆が僕を待っている。


 だから僕は準備をした。

 妻に向けた手紙を書いた。


「僕もすぐにそっちに行くから」


 冷たく固くなってしまった妻の横に転がり、忘れないようにお金を持って眠った。

 これで船にも乗れるはずだ。

 

 準備は万端、僕は眠りについた。


 10回目の夢は見ることはなかった。


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10回目は来なかった 猫月九日 @CatFall68

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