トリの降臨

江東うゆう

第1話 トリの降臨

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。


 ――トリの降臨!


 天の声とともに、暁の赤い空から翼を広げた鳥が地上に降りてくる。

 クジャク、フラミンゴ、カワセミ、キジ、オオルリなどはカラフルで、世界が色見本になったみたいだ。

 その後に降りてくるスズメやツバメ、カモメも、かえってあっさりしているのがいい。

 インコやオウム、文鳥といった、人間のペットとして知られた鳥もいる。

 中には、不死鳥や、金色の鳳凰ほうおうなど、実在しない鳥たちもいる。


 降りてきた鳥は自由自在に飛び、鳴くものだから、辺りはたいへん賑やかだ。

 画像処理に問題はないだろうか。


「ちょっと、アバターが全部鳥っていうのは、問題ないですか」

 僕は一緒にモニターを眺めていた犬伏いぬぶせ主任に尋ねた。

 今見ていたのは、アバターを作成する場面だ。このゲームでは、大きさや色、くちばしの形など、自由に選んで好みのアバターを作ることができる。

「やっぱり、猫とか犬とか、あと、人間とか。ほかの動物も入れましょうよ」

「いや、でも俺たちにはいちばん鳥がなじんでいるからな」

 犬伏主任は譲らない。名前に「犬」がついているのに、鳥びいきなのだ。

「いまさらですが、猫なんかも見たいお客様がいるんじゃないですかね?」

「猫はないだろう。危険だ。嫌な思いをしたお客様も多いだろう。犬は、どうかな……。仲よくできる気は、俺はしないんだが」

「じゃ、人間」

「論外だ」

 人間をアバターにすれば、着せる服も選ぶことができるからバリエーションが増える。その分、同じアバターを作成してしまうユーザーも少なくなる。オンラインで行われるゲームである以上、アバターかぶりがない方が管理する我々も楽なのだが。

「鳥でアバターを作れば、自分に似たアバターをつくるお客様が多いだろうから、警察としても大助かりなんじゃないかな」

 主任の声はよく通る。僕は慌てて辺りを見回した。幸い、誰もいない。

「そうとは限りませんよ。僕だったら正反対のアバターにします。クジャクとか、派手で大きいの」

 このゲームには公が絡んでいる。ユーザーのデータは選んだアバターとともに、警察に送られる。事件が起こったときに、ゲームの操作中だったら、そのままアリバイにもなる。

 実は、この世界は以前に生態系の頂点である「人間」というのがいた。だが、度重なる自然災害と、人間同士が争ったために数が激減、もう絶滅寸前だ。

 反対に、僕たち鳥は空を飛べる自由さ、物をあまり持たない身軽さから災害も戦争も生き延びた。長い時間をかけて、人間の文化を再利用して、今ではちょっと便利で、長生きできる世の中を謳歌している。

 失敗を見ているからこそ、人間と同じ道を辿るのは避けたい。そこで、ストレスなく個人個人を監視して、危険行為に及びそうになったら公が止めに入る、という計画が立てられた。

「論外っていうけれど、懐古主義の連中は人間を好みますよ。衣装のバリエーションを豊富にして、貴族の服なんかは有料にしては」

「有料コンテンツに誘導できれば、確かにいいな」

 犬伏主任は、メモ帳に人間のアバターの例を描き始めた。

 描かれた人間の顔は、誰かに似ている。

 ……ああ、その人は。


「おはよう」

 呼び掛けられて、僕は目を開けた。あまりにその人の顔が近いので、僕はびっくりして、止まり木から落ちそうになった。

 夢だ。

 それも、9日も連続で見ている。

「ピピくん。今日もきれいな白色ですね」

 ご機嫌に言うその人は、僕の飼い主だった。文鳥の僕をペットショップで見つけて、家に連れ帰ってくれた。

 清潔なカゴも、ごはんも、優しいその人も、不満はない。落ち着いて過ごせるし、安心して眠れる。

 よく眠れる分、僕は夢を見るようになった。

「少子化は想定以上のスピードで進んでおり、政府は……」

 その人の背後で、テレビのアナウンサーが言っている。人間は、減っているらしい。

 僕は、夢を思い返す。

 まさかな。

 ぶるっと体をふるって、僕はその人のために、声を張った。

 いってらっしゃい、の挨拶として。


〈おわり〉

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トリの降臨 江東うゆう @etou-uyu

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