あの夢を見たのは

深海くじら🐋カクヨムコン参戦💕

銀河中心殴り込み計画

 あの夢を見たのは、これで9回目だった。

 青い空、碧い海。ビーチボールを追って波打ち際をはしゃぎ回る子どもたちと、それを見守るラッシュガードの背中。振り返った女の顔だけがぼやけて。

 私は船を呼び出した。目の前にスクエアの画面が浮かび、現在位置と相対速度、近隣の重力波形が表示された。

 やっぱりそうだ。船内時間1分前に巨大重力源の横を通過していた。若干の加速とともに緩やかで浅いカーブを描く航跡予測は、そのあとは真っ直ぐ画面の端まで伸びて消えている。

 細かい数値を読み取るのも面倒で、私は表示を落とさせた。ふたたび闇が戻ってくる。

 いつもと同じだ。あの夢が訪れるのは、決まって中性子星の近傍を通過するとき。常ではない重力波が仮死状態で眠っている私の脳に働きかけてなのか、毎回必ず同じ夢を呼び起こしてくる。まだ地球にいた頃の、体感時間で5年程前、地球の時間でならおよそ2.5万年前の記憶。現在は光の速度の98.5%の速さで航行し、広範に広げた電磁ネットで回収した星間物質を変換して今もなお加速し続けているこの船に乗り込む少し前の、家族で出かけた最後のバカンス。

 いや、あの夢に出てくる三人は、本当に私の家族だったのだろうか。半年前に見た最初の夢のときからずっと、あの女性の顔は浮かんでこなかった。子どもたちにしてもそうだ。不規則で早い動きに惑わされ、顔や表情を特定することはできない。あれが私の本当にあった体験なのかどうかを確認する術は、もやは失われている。

 あの夢は、日々の大半を寝て過ごしている私にとって地球という出発の地や自らの出自を憶い出す貴重なトリガーとなっている。

 ふと思い立ち、私は再び画面を開かせた。今度のは3D、地球の主星である太陽を中心にしたこの船の航跡図だ。途中で8回方角を変えているぎくしゃくとした線分。なんの規則性も感じられない。だが私の直感は既になにかを感じ取っていた。これらの転回に通じるなにものかによる意図を。

 この宇宙における位置関係は常に動いている。だから私たちはいつも、どこかを基準点とし、その点を乗せた仮想面を設定して自分の位置を測る。だが基準点と終端点である私の船との間には2.5万年という長い時間の経過が横たわっているのだ。今の私の位置から見て2.5万年前のあの位置にいた基準点は、実際のところ今現在どこにいるのか。基準点を私の船の現在地で設定し直し、銀河系の中心との相対位置を盛り込んだ太陽系の現在位置とを直線で結んでみた。8回の方向修正を行った船の航跡は、その直線とほぼ重なっていた。

 なんということだ。

 私の船は、意図的としか思えないなにものかの助力によって真っ直ぐに最短距離で突き進んでいたのだ。

 どこに?

 直線を出発地と逆側に伸ばしてみる。

 全行程の1%を切った先に、天の川銀河の中心があった。

 私を呼ぶなにものかは、あの場所で私の船が到着してくるのを待っている。

 私はそう確信し、身を震わせた。



 開発者の疑似人格AIを搭載して、2万5千年前に地球圏を離脱したブラックホール調査船バスター4号は、ようやく銀河中心への旅の終焉を迎えていた。

 お楽しみはこれからだ。

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あの夢を見たのは 深海くじら🐋カクヨムコン参戦💕 @bathyscaphe

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