踊り場の妖精

ナナシマイ

アップサイドダウン

 悩みごとは踊り場の妖精に相談するといいよ。

 大樹だいきがそう言った。

 どっち進んだらいいか、教えてくれるらしーぜ。

 同じ顔で広樹こうきがそうつけ加えた。

「へえーそうなんだー……」

 わたしは心底どうでもいいときの相槌をうつ。すかさず突っ込まれる。

「棒読みは悲しいな」

「もっと興味持てよ」

 この双子、高校入学の日に出会ってからというもの、やけにグイグイくる。

 思い当たる節がないわけではない……というか今わりと確信した。

「ま、華奈はなちゃんの悩みなら僕らが聞いてあげるけど」

「こいつに悩みなんてないだろ」

 あるわ。あんたらだよ。

 学校の階段。踊り場。現在進行系で双子同時壁ドン経験中。なにこれ。

 わたしの弱虫め。二人の隙間くらい爽やかな初夏の風とともに駆け抜けろよ。

 せめてもの抵抗、見下ろしてくる双璧をきっと睨む。

「かわいー」「可愛いね」さすが双子。息ぴったり。じゃなくて。

 華の女子高生。わたしにだって甘酸っぱい恋をしたいという願望はある。

 けど、それは双子に壁ドンされることではないと思うのだ。

 だって顔面偏差値の圧が強すぎる。周囲の視線が痛い。マジやめて。こんな悲劇のサンドイッチ、わたしは望んでないんだってば!

「どうかな。授業をサボって図書室へ行かない?」

学校ココじゃつまんねーよ。外、抜け出そーぜ」

「うぐ……」

「あれ、悩んでる?」

 顔が近いんだわ。

「ほら、妖精さーんって呼んでみろよ」

 とうぜんわたしの動揺なんておかまいなしで。

 助けを求めようとするも「華奈ちゃん以外の女の子に興味はないよ」とか「俺たち以外の男、見るなよ」とかわけわかんないこと言ってくるのもホントやめて。

 通りすがりのセンパイ、お願いだから「うわぁ……」って顔して通り過ぎていかないで。


「どっちにする?」「どっちだ?」

 ふたつにひとつ。第三の選択肢を見つけられる自分でいたかった。悲しいかな後ろは高窓だ。

 大樹と階段を上るか。

 広樹と階段を下りるか。

 どっちに行くか。ふら、ゆら、と視線が揺れる。わたしは――


「――まだ選ばないでっ!」


 え、という顔がふたつ、向けられる。

 ……し、失敗した!

 わたしは誤魔化すように「えへへ……」と苦笑いを浮かべて、がしりと両手で掴んだ妖精を背中へ隠した。

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踊り場の妖精 ナナシマイ @nanashimai

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