花散る里の人々【KAC20253】
🌸春渡夏歩🐾
妖精達のいるところ
オレは機械屋のカイト。機械を修理しながら、旅をしている。
今回、はじめて立ち寄った里は、不思議なところだった。
最初は気づかなかった。
ちょうど着いたのは昼時で、手近な食堂に入る。
「はい、いらっしゃいませ!」
小柄な店員が元気よく迎えてくれた。
おススメはアサリと
さすがにオレだって、まだ様子もわからないうちに、昼間から飲んだくれたりはしないぞ。
春の訪れ、だなぁ。
朝、夜はまだ冷えこむ日もあるが、日中は日差しの温もりを感じる。
旅に良い季節になった。歩いていても気持ちいい。
食堂で紹介してもらった宿で、部屋を案内してくれた小柄な
「お客さんも『妖精の花祭り』を見にきたのかい? この時期は混むから、部屋がとれて良かったね」
女将の話によると、明日の満月の夜、その祭りがあるらしい。妖精の姿で踊る子供達が可愛いのだとか。
「それじゃ、どうぞごゆっくり」
荷物を置いて、ベッドに腰かけたとき、オレはその違和感に気がついた。
あれ? オレ、背が伸びた? ああ、違う、これは……。
オレは大男というわけじゃなく、ごく普通の体格だと思うが、なんだか全体に部屋の家具が低くて、小さいのだ。そういえば、ここに来るまでに見かけたこの里の人達は皆、小柄だった気がする。
「痛っ!」
寝転がったときに、頭をぶつけてしまった。ベッドの大きさは、足を伸ばせるギリギリだった。
◇
翌朝、食堂(ここは夜だけやっているとのこと)へ下りていくと
「おはよう。よく休めたかしら」
卓を拭いていた女将が迎えてくれた。
他のお客達は早くから、祭りの飾り付けを見に出かけたらしい。
「お客さんも行く前に、お茶を一杯いかが?」
女将はお茶を注いでから、側の席に腰を下ろした。
「この祭りは初めて?」
そして、女将が話してくれたのは、小柄な
—— 昔々、人々の背中には羽根があって、空を飛ぶことができた。
「あたしは子供の頃、本当に妖精を見たんだよ。水を汲みに行ったら、見たことのない大きな白い鳥が水面に浮かんでいた。鳥の背に妖精が腰かけていて、その羽根が光っていた。そんな話をお客さんは信じるか、わからないけど」
女将は自分のお茶をひと口すすると
「妖精は信じる人にしか見えないからね。イタズラもするけれど、助けてもくれる。あたし達大人にはもう見えないけれど、子供達には信じていて欲しいと思っているのさ。妖精達はいつも近くにいて、困ったときには、きっと助けてくれるって」
◇
オレも里をぶらぶら歩いてみることにした。
妖精に扮した子供達が、歓声をあげながら、嬉しそうに走りまわっている。
「お前達! ほら、邪魔だから、あっちに行って」
「衣装を汚すんじゃないよ!」
祭りの準備に忙しい女達の声が響く。
オレはガキは苦手だが、この里の子供達は、背中の羽根が本物なら、本当に妖精のように空が飛べるんじゃないかと思える。
里の人も、祭りを見に来た人も、愛らしい子供達の姿に、皆が自然と笑顔になっている。
子供を大切にしているところでは、穏やかな人達が多いんだ。
村の中心の広場に、祭りの舞台が作られていた。そこにあるのは、大きな桜の樹。今、まさに満開に咲き誇る桜の花は圧巻で、ときおり風に花びらが舞う。
舞台の端で、数人の男達が何やら揉めていた。
「だって、どうすんだよ?! これじゃ『トリの降臨』ができないだろ?」
「『トリの降臨』にはこの装置は欠かせないないからなぁ」
「『トリの降臨』無しに祭りは終わらないぞ」
「今になって故障するなんて、困ったな」
トリの降臨……?
オレの頭の中に、大きな黒い鳥が舞い降りてきて、妖精達に襲いかかるという不気味なイメージが浮かんだ。
う〜ん、この祭の最後にはふさわしくないよなぁ。ん? 故障?
「こんちは。オレ、機械屋なんですけど。何か役に立てるなら」
オレは声をかけてみた。
◇
トリとは、鳥のことじゃない。「最後を取る」ということで、締めの出し物をそう言うのだと。月と桜の妖精を特に大事にしているこの里では、祭りの最後に踊る。それが演目『トリの降臨』。
幻想的な雰囲気を出すために、スモークを出す装置が、どうやら故障しているらしい。
機械屋の腕の見せどころというものだ。
◇
『妖精と花祭り』、満月に照らされて、妖精の姿で踊る子供達。
炎、水、雪、雨、風、木、花……それぞれの妖精達。
妖精って、こんなにたくさんいるんだな。
最後の演目『トリの降臨』、白い雲に覆われた舞台上で、月と桜の妖精が踊る。
装置は無事に動いたみたいだ。
空には満月、舞い散る桜の花吹雪。
本物の妖精を見たことはないけど、きっとこういう美しい姿なのかもしれないな。
◇◇◇
信じることで、救われることもある。この里の人達、子供達が大切にしているもの。
この世界には、妖精の住む里があってもいいと思う。
そして、旅は、このあとも続く。
*** 終 ***
花散る里の人々【KAC20253】 🌸春渡夏歩🐾 @harutonaho
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