妖精は見れない

加須 千花

あたしは一方的に白 霞と張り合ってきたから。

  アンには、女友達のハク がいた。二人とも唐、長安の豪商の娘だ。


 七才のころ、無邪気な白 霞に、


「楚 晏は同い年なのに、落ち着いててお姉さんみたい、憧れちゃう!」


 キラキラした青い目で言われて、


「いいわよ、憧れても!」


 嬉しかった。


 でもそのあと、白 霞はこっそり父親の商隊に紛れ込み、二ヶ月以上、長安の外を旅する、という離れわざをやってのけた。


「叱られたでしょう?」

「うん! でも楽しかった! あたし旅先で妖精(この時代、流れ星をさす)を見たの。すっごくキレイだった。 アンと一緒に見たかったなぁ。」

「妖精なら長安でも見れるじゃない……。」

「高い山の上で見ると、違うのよ!」


(馬鹿ね。豪商の娘のあたしが、長安の外を冒険なんて、できるわけないのに。

 無邪気で大胆で馬鹿な白 霞。イライラするわ……。)


 







 白 霞は成長し、近隣でも評判の美女となった。

 男にモテまくった末、好きな男と結婚した。

 だが、子供ができず、結婚生活はうまくいかなかった。

 楚 晏は、近隣で評判になる事はなかったものの、親のすすめで結婚をし、子供に恵まれた。


「あたし、もう三人目よ。白 霞はまだ? 子供って可愛いのよ。ほほほ……。」


 楚 晏は自慢した。白 霞は気後れしたように、


「うらやましいわ。」


 と言った。楚 晏はニンマリ笑った。


(勝てた!)


 そう思った。



 でも、夫が商売に失敗し、楚 晏は金持ちから貧乏に転落した。


(白 霞にだけは知られたくない。)


 白 霞に会う時だけは、贅沢してるふりをした。

 最近は、もう、新しい衣を新調できず、古い衣ばかりで白 霞に会っていた。

 彼女は気がついただろうか?


 ハク は三十歳で離婚して実家に逃げ帰った。

 楚 晏は、彼女を徹底的に嘲笑あざわらってやった。

 二人の仲は決裂した。


(良いわ。もう、会わないもの。化粧紅も使い果たしてしまった。化粧もできなければ、白 霞は異変に気がつくもの……。)


 楚 晏は、白 霞とケンカ別れしたあと、贅沢な衣を全部手放し、銭に変えた。粗末な衣に袖を通すのは惨めだった。

 

 金に困るようになっても、白 霞に助けを求めるようなことはしない。

 絶対に。


 遠い昔、あたしを憧れで見たあなたの顔を、憐れみで曇らせてなるものか。


 さよなら、白 霞。


 あたしとあなたは、一緒に妖精を見れない。

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