アナザーブルースカイ

LAST STAR

第1話 青春という憧れ

「青春なんてどこにあるのよ。そんなのあると思う?」


小夏は錆びれた図書館で学生の恋愛を描いた大衆小説を手に取り、怪訝そうな顔で隣の席を見つめる。そこには詰まらなさそうに図書委員の仕事をこなす青年が居た。


「青春はどこにあるのかですか。またしても、小夏委員長はしょうもないことを考えていますね?」

「――ふっ、隆之君もようやく分かってくれる? 素敵でロマンチックな展開やお話は所詮、物語の中だけだって」

「そんな馬鹿みたいなこと言ってないで仕事を片付けてください。こっちにしわ寄せがくるんですから」


返却カードの整理に未返還者のリスト、次月におすすめの読書コーナーに上げる本の選定など腐るほどに仕事はドシドシとやってくる。確かに彼だけに仕事をさせるというのもまた違う気はするのだが、話を逸らされてムッとした小夏はニヤついた笑顔を見せる。


「私は委員長だからさ、宮内君にすべて任せる!」

「は? え?」

「アーユーオーケー? 私、キミの上司! ここの係長ね!」


宮内君は盛大なため息を吐きながらピッと私に向かって指を差し、ニンマリと笑いながら世にも怖い声色で喋り出す。


「はは、冗談がうまいなぁ~。組織としての肩書を使うなら部長という名の先生に報告してその首、今すぐ飛ばしてやりましょうか? 内申に傷が付きますけど、よろしいですか?」

「っ……じょ、冗談だって!! だ、だって人の話に返してくれないから」


この子、本気でやる。先生にチクる気だったぞ。

私が謝って引き止めなかったら数十秒後には職員室へ駆け込むつもりだっただろう。

スッと整理した本を退けた後、彼は鼻で笑った。


「馬鹿も大概にしてください。青春なんてものはどこにあるか、じゃないと思います。青春は青春だと感じたら青春なんです。まぁ、放課後に図書委員として残っている僕らには最も程遠い存在であることには変わらないでしょうけど」

「確かに。それは言えてる」


委員会の特性上、委員会メンバーの大半は陰キャか、不真面目な幽霊メンバーのどちらかに限られる。宮内君の言う通りであることは間違いない。


「んーでもさ、迫害されて社会の駒のまま終わるのもなぁ~って思って。憧れはもちたいじゃん?」

「なんですか、その人生詰んだ人みたいな物言いは――あと、そんな乙女心なんて小夏さんにあったんですか!?」

「はぁ!? こう見えても歳頃の乙女ですけど!?」

「良かったぁ……小夏さんに人の心があって……」


いやいや、人を何だと思っているんだ。この子は。

しかも、その物言いはお母さんとかそこら辺の物言いだぞ。

そう思ったのも束の間で、宮内君は至極まっとうそうな顔で呟く。


「――といっても小夏さんなら

「なんそれ、どいう意味?」

「仕事もしないで『青春』とかいう輝かしい世界を見たいならこんな薄汚れた図書館で譫言うわごとを言わないで、皆さんの所へ行けばいいじゃないですか。ミスコンで優勝した小夏さんにはその才能があるでしょうに」


宮内君の言葉には明らかな敵意があるように感じられた。

それは元々、私が正反対側の人間だったからか、あるいは仕事をしないでノウノウと喋る私に終ぞ、頭に来たのかは定かではない。

けど、彼は勘違いをしている。


「馬鹿バカ言うけどね。私はココに居たいからいるの。それに委員長を務めれば内申もアップするでしょう? んまぁ……生徒会長よりは見劣りするかもだけど」

「評価の為とは……そりゃあ、末恐ろしい年ごろの乙女で」

「意義反論、文句はクソたれの社会様にお願いしますぅ」


私は軽口をたたいて笑顔で誤魔化しを入れる。

心は穏やかではないけれど、決して元の環境に戻りたいわけじゃない。それに、もう戻ったところで私は学校ココの歯車になるだけであろうことは想像できていたのだから――。






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