ーLASTー

第17話

出発の日。

18番ホームは混雑していた。

私が乗る新幹線は、まもなく東京駅を出発する。

「いい。付いたら必ず連絡するのよ。わかった?」

「だから、大丈夫だって」

見送りに来た母の3度目の念押しだった。

「それから、これ」

母は、鞄の中から厚い紙袋を出して、私に渡した。

「何?」

「開けてみなさい」

私はたたんであった紙袋を開き、中身を覗いた。

見たこともない厚さの一万円札の束が入っていた。

「え⁉ 何これ⁉」

「あの人からよ」

「おじさん⁉」

「あなたの好きに使いなさい」

「なんで…」

「あなたの学費を半分受け持ちたいって言ってきたのよ。私たちそんな関係じゃないでしょって怒ったんだけど」

「…」

「珍しく押し切られちゃったわ」

ハッとした。合格が決まった夜、おじさんが謝っていたこと。

そうか。このことだったんだ。

「あの人、譲らないから」

「おじさんが…」

「本当は振り込んだほうが良かったんだけど。あなたにはこのお金の重みを知ってほしくて」

「…」

「これはあなたが自由に使いなさい。でも言っておくわ。このお金はただのお金じゃないからね。つまらないことに使ったら、お母さん、あなたのこと許さない。いい? 許さないからね」

「…お母さん。一晴おじさんは、お母さんのこと大好きだったんだよ」

「馬鹿ねぇ。そんなこと口に出すもんじゃないの」

駅の発車のアナウンスが流れた。

私は目を逸らさずに母を見つめ続けた。

母は、少し溜息をついてから、こう言った。

「しょうがないでしょう。あたしには孝生さんがいるんだから」

お母さんは微笑んでいた。寂しい笑顔に見えた。

ドアが閉まる。新幹線が動き出し、母の姿がすぐに見えなくなった。

紙袋の中をもう一度覗いてみる。

非常識と言えるくらいの札束。

母らしいと思ったら、少し可笑しくなった。


おじさん。

私の好きな人。

私の好きだった人。


私は紙袋を抱きかかえたまま、窓から流れる景色を見つめた。

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