チョコがけのひなあられ

蒼月 紗紅

チョコがけのひなあられ

 昼下がり。実家から仕送りが届いた。いつもの野菜や米などの食料の他に、ひなあられが入っていた。そういえば今日から三月。もうすぐひなまつりか。

 ちょうどいい。小腹が空いていたので、温かいお茶でも淹れて少しつまむことにしよう。


 *


 醤油に青のりにマヨネーズ。美味しい。私の頭の中にあるひなあられといえば、このお煎餅みたいなものである。


 上京してきてすぐに近所のスーパーで売られているものを買って食べたら、あまりの甘さに悶絶した。社員食堂の卵焼きもそうだが、しょっぱいと思って食べたものがあんまいと脳が拒否反応を起こして思考が一時停止してしまう。決して甘いものが嫌いなワケではないが、それとこれは話が別である。




 ……お、あった。チョコあられ。普通のあられにチョコがかけられただけのシンプルなやつ。塩味の中にあるからこそ際立つ甘味。これを考案した人は紛れもなく天才だと思う。

 幼稚園に入る前の頃は食べ過ぎると虫歯になるからと親に存在を隠されていたからなのかどこか特別な気がして、今でもなんだかんだでこれが一番好きだ。


 それにしても、他と比べて入ってる量が明らかに少ない。たぶん五粒くらいしかないだろう。だから慎重に食べ進めないといけない。昔、家に遊びに来た友達が一度に二粒も口に放り込んでいたが、それが原因で喧嘩になった。


 ……とはいえ。チョコあられを一気に食べてみたくなる衝動は分かる。別にそんな決まりは無いが、何かやってはいけないことをしているかのような背徳感がある。そこに抗うことで得られる快感。気になる。……やってみるか。

 私は袋の中を漁りながらもう一粒のチョコあられを探す。……よし、あった。どれどれ。




 ふむ。……確かに美味しい。美味しいんだけども、何かが違う。少なくとも、一粒を口にしたときと特に変わりない。言ったら悪いが、正直なところ期待外れだった。



 ――そうだ。私はもういい歳をした大人。その気になれば、チョコあられだけが入ったひなあられを買おうと思えばいくらでも買える。思考と嗜好はまるで子どもだが、大人買いもとい大人食いといったところか。



 そもそもひなまつりって、子どもの健やかな成長を願うための行事だっけ。


 ――ああ、これが大人になるということなのだろうか。不自由でも全てのことが目まぐるしく輝いて見えた子どもの頃と、自由だけど日常に目新しさが無い大人いま。どちらが良いのかなんて分からないけれど、それらの変化を受け入れてゆくことが成長なのだろう。

 ……なんて、二杯目の緑茶を啜りながら物思いに耽ける休日の夕暮れ。



「あれ、もうこんな時間。晩ご飯を作る準備をしないと。っと、その前に」


 私は手元のスマホで、チョコあられだけが詰め込まれた商品を注文した。

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