🎎お雛様、世界樹を救う🌲

みちのあかり

雅なる解決

   エルエムエスサイズ

   エルエムエスサイズ

   我は求め訴えたり!


   我ら魔術師、我が身贅肉を捧げる

   我ら魔術師、エスサイズになろうとも

   我が身贅肉が主に削がれようとも

   国のため、人民のため、救世主を求む

   我らが願い、受け止めよ


   エルエムエスサイズ

   エルエムエスサイズ

   我は求め訴えたり!




 

 ここはデーブニート王国。天下泰平、常春とも言うべき気候の安定した平和な国。

 穀物も野菜も果物も自生し、人々はのんびりと暮らしていた。


 二年前までは……。


 王国を護る世界樹の葉が茶色く染まり、森の中から臭気が発生したのが二年前。

 森から光が徐々に消え、臭気が広がった。魔物と呼ばれるおぞましい獣が現れるようになったのはその10か月後。


 肥沃な大地は臭気にまみれ、人々から笑顔が消えた。


「この状況は250年前の伝説にそっくりだ。今こそ勇者召喚の儀を!」


 かくして魔術師が集められ、封印された秘術を行うこととなった。



 集められた魔術師は困惑した。


「我らの贅肉をいけにえに救世主を呼び出せと! このふくよかな体が……。しかし、世界の崩壊に比べれば我々の……、命の次に大事な……、ええい! ままよ!」


 自分たちの犠牲で王国が、世界が助かるなら。いたし方がない。


 L.Lサイズの誇らしい腹をなでながら、魔術師は涙した。


「たとえ我が身がエルサイズ、いやエスサイズになろうとも、やり切って見せます。王国に住む人民のために!」


 悲壮な覚悟で宣言をすると、集まっていた人々は涙を流して褒め称えた。

 魔術師はみな、封印された魔導書に書いてある通りに上半身裸になった。


 そして魔法陣を囲んだ魔術師は冒頭の呪文をが唱えたのだった。


 

   エルエムエスサイズ

   エルエムエスサイズ

   我は求め訴えたり!



 魔法陣が光を放った。 

 と同時に、魔術師たちのふくよかなウエストがみるみるうちに細くなる。

 腹筋が六つに割れ、ゆるくなったズボンがずり落ちる。


 魔術師は手を頭上に掲げなければいけない。パンツが……、パンツが今まさに、細くなった太ももからずり落ちるのを感じながらも、彼らはどうすることもできないでいた。


 何年もかけて溜め込んだ、この王国の美的と称賛されるべき贅肉も、全裸をさらさなければいけない人としてのプライドも、尊厳全てを失いながらも役割を果たしている魔術師を人々は涙しながら見守っていた。



 バタバタバタっと次々に魔術師が倒れ魔法陣の光が収束すると、そこには七段の赤き布に覆われた階段と大勢の人形が現れた。


「人形? 失敗したのか」


 国王が魔術師を哀れみながら嘆いた。


ちん日乃本ひのもとの神の血を引く高貴なるすめらぎのひな型なり」


 最上段にいる人形が喋った。


「チン?チンってなんだ?」


 聞いたこともない一人称は、異世界の人々には伝わらなかった。翻訳もできず、そのまま朕と訳されたのだ。


「「「チン?チン?」」」

「ええい! チンチン言うでない! 朕とは高貴なる方の人称である。『わたくし』とか『俺』とか言うであろう。その最高峰である。控えおろう!」


 白い髭を伸ばした左大臣が大声で恫喝した。


「よいよい。知らぬ者には教えればよいだけじゃ」

「御意」


「我が身は皇のひな型。どのような厄災をはらえばいいのかのう」


 国王は今までの経緯を説明した。


「左様か。我が身はひな形。厄災を受け入れるのが役目じゃ。では厄災を祓いに参ろうか」


「「「御意に」」」


 右大臣が陣頭指揮をとった。


「仕丁牛車の準備を。くつと傘も忘れずに。三人官女。皇后の出立の準備を」


「では参ろうか」


 ゆるりとした雰囲気を崩さず、皇のひな型は動きだした。



 行く手を阻む魔物を、左大臣の弓と右大臣の太刀が祓っていく。

 その光景を王国の騎士団が(ありえない光景だ)と見ている。


「日乃本は自然を神とする国家。自然に反するものを打ち砕くのは必然であり道理なのじゃ」


 そう言われても理解が及ばない王国の騎士たち。


「おぬしらの様にぷくぷくした体型では、足るを知るということは分らぬかの」


 皇がそう言いながら「おほほほほ」とわらった。


 牛車がもう先に行けなくなる細道に差し掛かった。


「ここから先は歩かなければいけないのか。ひな形の朕でよかったのう」


 皇后もうなずきながら牛車から出てきた。


「ご同行致しますわ」


 なぜか薙刀を持ちながら言い放った。


「わたくしは正義のために戦います。それが命を懸ける戦いであっても! 私は一歩も引きません! それが皇后なのですから!」


 皇后は歌ってみたかったセリフトップ5の一つをアレンジして言い放った。



 右大臣左大臣、そして皇后の活躍により世界樹のもとにたどり着いた。

 騎士団はもうわらって現実を受け入れるしかなかった。


「これがご神木であるか。なるほど。弱っておるのう」


 左大臣が世界樹を鑑定した。かなり危機的状況なのを告げるしかなかった。


「では朕のやんごとなき始末であるな。みなの者心してかかれ」

「「「御意」」」


 そこからの活躍は素晴らしかった。


 五人囃子が笛や鼓を奏で謡う。

 三人官女がお神酒を捧げ舞う。


 左大臣が鏑矢を放ち、右大臣が剣舞を奉納した。


 見る見る間に臭気が消え去り、魔物が臭気を得られず消えていった。


 最後に皇后と皇の、息の合った祈りの言霊が世界を覆うと、世界樹の葉の色が鮮やかな緑色に変わった。


 国王以下デーブニート王国の精鋭は、はじめて触れた和の音楽や踊りに魅入られていた。


「うむ。御神木も生気を取り戻したようじゃ。しかしこの森はこのままではいかんな」


 皇は辺りを見回し国王に告げた。


「木々が多すぎじゃ。これでは光も風も十分に行きわたらないであろう。栄養も足りなくなる。二割ほど古き木を伐採するのじゃな。そなたたち、もちっと痩せた方が健康にも良いであろう。木も贅肉もほどほどにあるのが雅というもの。国民挙げて働くのもよいのではないかのう」


「「「ははぁ」」」


 左大臣が国王に告げた。


「どうやら麿まろたちは力を使い果たしたようじゃ」

「かたじけない」


「いやいや、かしこまらなくてもよいぞ。このまま戻ったら眠りにつかせてもらう。来年の二月になったら起きることにしよう。それまで森をよい環境にしておくようにな」

「ははぁ」


 こうしてひな人形たちは眠りについた。


 翌年二月。ひな人形たちが目覚めると、筋肉隆々になった王や臣下や国民が大勢で感謝の宴を開いた。


 それ以降、この国ではひな人形が眠りにつく直前の三月三日に大宴会を開くことになった。その宴は「ひな祭り」と名付けられ、世界樹とひな人形を讃える祝日になったのだった。


 おしまい。

 

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🎎お雛様、世界樹を救う🌲 みちのあかり @kuroneko-kanmidou

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