第5話 戦利品

【ツクモが武装展開しました】


【リミッター解除:ステータスバランス変更:攻撃力最大:防御半減】


【攻撃力:108万(物理)75万(魔法)】【防御:78万】【生命値:20万】【魔力点数:1万】


【装備:能力開放】


ツクモの盾と剣が形を変える。


 縦長の長方形の上下に三角形を取り付けたような形の盾は、ツクモの身長とほぼ同じ長さの正八角形に。真っ直ぐ伸びていた細い剣身は鎌のように弯曲し、幅広で分厚い刃へと変わる。




竜の尾を剣で薙ぎ払い、竜の牙を盾で受け止め、ツクモは戦い続ける。


どれほどの間、その攻防は続いただろうか。


【ソニーリュー:覚醒:外皮硬化:魔法無効】


【ソニーリュー:火炎攻撃】


竜が大きくその顎あぎとを開いた。


喉の奥まで見えたその時、ツクモが跳んだ。


竜の口端に露わになった膜のような筋肉を、その剣が斬り裂いた。


下顎を閉じられなくなった竜の口腔内から上に向かって剣を突き立て――【武器超強化:破砕連撃・改】の文字と共にツクモの剣が閃いた。


竜がどさりと倒れ伏した。


きらきらと輝く翡翠の鱗の山を遺し、竜は消えた。肩で息をするツクモ。


【ツクモがSSレア獲得:ソニーリューの核】


【ツクモがSレア獲得:竜の逆鱗】【ツクモがSレア獲得:竜血珠】


【ツクモがSレア獲得:翡翠の妙薬】【ツクモがSレア獲得:翡翠の粉薬】


【ツクモがSレア獲得:竜の頬肉】【ツクモがSレア獲得:竜の涙】


【ツクモがSレア獲得:竜の心臓】


「モンスターが死ぬと、こうやって色々なものを入手できる。納品クエストでは、植物採集だけでなく、狩りの後にランダムに得られる物も要求される」


ツクモが無表情に解説してくれる。まだ、ツクモの戦利品情報が延々と流れている。【討伐者ツクモの鞄が満杯です:アイテム消滅まで1分】という表示に、ツクモがため息をついた。


「少し、パーティを抜ける。街に戻って持ち物を整理してくる」


戦利品獲得の優先権は討伐への貢献度で決まる。討伐者がパーティから抜けると、討伐パーティーメンバーの中で貢献度と職業レベルの高い者に獲得権が移行する。


ツクモは説明だけして、ふっと消えた。


【ツクモがパーティを抜けました】【レオーン:パーティ討伐貢献度9】


【レオーンがレア獲得:竜の鱗】【レオーンがレア獲得:竜の骨】


【レオーンがレア獲得:竜の肉】【レオーンがレア獲得:竜の爪】


【レオーンがレア獲得:竜の肉】


……


「あ、俺も鞄いっぱい」レオーンもパーティを抜けて居なくなってしまった。


【ルフェニャ:パーティ討伐貢献0】


【新人ルフェニャがSレア獲得:小竜の剣】【新人ルフェニャがSレア獲得:小竜の鎧】目の前には、立派な剣と鎧一式。


え? これ、僕がもらっていいの? とルフェニャがびっくりしながら手に取ると


【小竜の短剣:ルフェニャを所持者に登録しました】【小竜の鎧:ルフェニャを所持者に登録しました】また色々と表示された。とりあえず、鎧を身に着けてみた。


「すごい……」


鞘から抜いた短剣の刃は薄くて軽く、そしてとても美しかった。それに見惚れていると、背後から、がさがさっと草をかき分ける音がした。


てっきり、レオーンかツクモが戻ってきたのだと思って、


「あ、おかえり」


なんて笑いながらルフェニャは振り返った。だが、そこに居たのは額と頬に、“植物の蔓に似た赤い模様”のある大男。


しかもその男は、頭上に、青い柄の大斧を掲げていた。


この人は、僕を狙っているんだ。


そのことに気づいて、恐怖に足がすくむ。




「寄越せ……!」


斧を振り回し、じくんじくんと男はルフェニャに近付いてくる。


ルフェニャの後ろから、ひゅっと頬をかすめて何かが飛んできた。


太い矢が、男の目に突き刺さっていた。その手から斧が落ちて、地面を抉った。


「無事か、ルフェニャ」


弓の射手は、ツクモだった。


「……何なの、この人」


戦慄く声でルフェニャは尋ねたが、返事はない。


目を射抜かれて悶絶しているその巨躯の男を、ツクモは冷ややかに見下ろしている。



襲撃者イーター、と呼んでいる」


男の姿が揺らぎ、さきほどのソニーリューのように光りながら消えた。


後に遺のこった装備品が、一つ一つ消えていく。


レオーンが合流して、


「また、イーター討ったのねぇ、ツクモ」


小さくため息をついた。


「……ほぼ新人だな」


ツクモが呟き、からの手を虚空に伸ばす。


その手に青い柄の斧が現れる。


ルフェニャを襲い、ツクモに討伐されて消えた男の持ち物だ。


「その斧って……」


ルフェニャの問いかけに、ツクモは苦々しい顔をした。


「敵を討伐したんだから、仕方ないだろうが。……俺の意に関わらず、勝手に持ち物になってしまうんだ」



「で、ルフェニャ。もしかしてツクモのこと怖くなった?」


レオーンの問いに、ルフェニャは即答できなかった。


だってツクモは、“人”を殺してその装備品を我が物にしたのだから。



「……額と頬に、“植物の蔓に似た赤い模様”のある者に、近づくなよ。殺されて装備品を奪われる」


ツクモはぐっと自分の手首を握って言い……そのままふっと姿が消えた。


「一旦、街に戻ろう、ルフェニャ」


レオーンはルフェニャに


“街へ一瞬で戻る方法”として腕輪の赤ボタンの長押しを教えてくれた。










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依頼、報酬、剣、魔法!〜異世界 ニキークにようこそ〜 日戸 暁 @nichi10akira

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