第4話 エンカウント

スビーノ高原へは、転送ワープで移動できるという。番人トヴァスのところに行き、


「スビーノ高原」


ツクモが告げるや、ふわっと体が浮き、


【ランダム転送:スビーノ高原、区画221に到着】


という表示とともに、目の前には青々とした草原が広がっていた。


「お前は草むしりでもしていろ」


 言って、ツクモは1人、すたすたと歩いていく。草の丈が長くて、ツクモの姿が隠れてしまった。


ルフェニャは自分の受注したクエストを確認する。


【チュートリアル3:採集をしよう:スビーノ高原のフフワワ草を30個集める】


【チュートリアル4:狩猟をしよう:スビーノ高原のコボボコを5体狩ろう】


どれがフフワワ草なんだ?と、辺りを見回す内、


【チュートリアル4:狩猟をしよう:スビーノ高原のコボボコをあと3体狩ろう】


突然、クエスト内容が視界をよぎった。


しかも狩る数が減っている。何で?


「5体が急に3体に……」


「あぁ、ツクモだよ。パーティ加入者の狩りも反映されるから」


レオーンにも、僕の受注しているクエストと進行状況がわかるようだ。


あ、あと1体。……0体。


【ツクモが獲得:コボボコの皮5個】


【ツクモが獲得:コボボコの大皮3個】


【ツクモが獲得:グレートボボコの蹄】


【ツクモがレア獲得:グレートボボコの核】


【ツクモがレア獲得:グレートボボコの金毛】


【ツクモがレア獲得:グレートボボコの大角】


「戦利品すごいねー」


レオーンが苦笑している。


グレートボボコって、何?


コボボコとどう違うの?


その前に、コボボコってどんな生き物?


戦利品って、何?


「草は毟っただろうな」


そんな声とともにツクモが帰ってきた。


「フフワワ草、どれですか?」


 尋ねるルフェニャをツクモはじっと見、それからレオーンを睨んだ。


「何のためにお前はここに来たんだ」


「超希少モンスター、ヨーモーグイの狩り」


「この初心者に、採集の仕方を教えるためだろうが」


呆れ返ったツクモは、ルフェニャに向き直った。


「腕輪の緑の石の上下左右に三角の突起があるだろ、下の三角を押して……フフワワ草のクエストが点滅したら、緑の石を押す」


緑の石から、赤い光線が出た。


何だこれ。


光線は左右に揺れながら、どんどん前方遠くの方へ伸び、途切れてしまった。


「赤い光が指す辺りに、クエストの対象物がある。……なんだ、あの辺り、僕がグレートボボコを狩っていた場所じゃないか」


赤い光線が伸びていった方角をツクモが指す。


そこへ3人で連れ立って移動する。


草はルフェニャの肩の高さまで伸び、足元も全然見えない。


「……ルフェニャ、これだ」


1本だけ見つけたフフワワ草を、ツクモが短刀で刈る。根本から先まで真白の綿毛で覆われた、30cmほどの植物だ。


「僕は左、ルフェニャは直進、レオーンは右を。フフワワ草は群生しないからな」


ツクモの指示で、手分けして探す。


全然見つからず、ルフェニャはひたすら前に進んだ。


他二人も芳しくないようだ。


フフワワ草、残り24個。


そこから一向に減らない。


装着していた耳あてからレオーンの声がする。


「ルフェニャ、どこだ?」


「どこって言われても……」


【ツクモから受信:合流しよう。ルフェニャ、そこから動くな】


視界にそんな伝言が表示された。


ルフェニャはちょうど、ぽっかりと草のない空き地に出たところだった。


そこで立ち止まる。


「あれ?」


さっきまで何もなかったのに。


目の前に大きな翡翠色の岩が出現した。


周囲の草丈を越すほどの高い岩によじ登り、その上に立って辺りを見渡した。


「おーい、レオーン、ツクモー!!」


手を振って呼びかけると、二人が物凄く慌てて駆け寄ってきた。


足元の岩がぐらぐらと揺れ始める。


「え?」


ルフェニャは、動く岩から吹き飛ばされ、地面に投げ出された。


痛みに体がしびれて動けない。


「初心者の、強敵遭遇運、半端ないね」


頭上から聞こえるレオーンの声が震えている。


「本当に……よりにもよって、こいつに出くわすとは」


答えるツクモの声も緊張している。


「……レオーン、今のスキルセットは物理火力どのぐらいだ」


「底上げすれば15万」


「上げずに」


「7万」


「僕が剣術士で行く」


ようやく身を起こしたルフェニャが振り仰いで見たものは。


翡翠色の鱗に覆われた、竜だった。


「お前に踏みつけられて、竜が起きてしまったじゃないか」


その竜の体高は人の背丈の2倍ほどで、多分きっと、竜の中ではそう大きくはないとはいえ……岩に擬態して、そのへんに転がっていていいモンスターではない。


【ツクモが難関クエストを1万ピヨで遠隔受注しました:Sランク・怒れる宝石ソニーリューの討伐】


この緊迫した状況で、クエストを受注したようだ。


くわりと牙をむき、翼と尾を震わせる竜と対峙しているというのに、呑気な。


「一度でもソロで完了したものであれば、難関クエストはいつでも受注できる」


「はぁ!? こいつをソロで討ったの⁉」


レオーンがびっくりしている。


「剣術士99の体力を舐めるなよ。持久戦には強い」


鞄をごそごそ漁っていたツクモが、


「最終強化済み、レベル40から使える永続回復ネックレスを、ルフェニャに貸そう」


【パーティ効果:ルフェニャの装備可能レベル40に補正】


【所持者ツクモ:レアネックレス:癒しの首飾り:ルフェニャを所持者登録しますか?】


【しない】とツクモが即座に答える。


赤い石の連なる首飾りを渡され、ルフェニャはそれを身に着けた。


これを着けている間は、軽い傷なら自然と治り続けるのだそうだ。


「レオーン、念のため、治癒円陣と防護壁を頼む」


「俺、そーゆーのからっきし駄目」


「いいからやれ」


ツクモに睨まれ、レオーンは降参と言わんばかりに両手を上げた。


翡翠色の竜が、ツクモ目掛けて尾を振り下ろす。それをひょいと躱して、ツクモはその後ろへ回り込む。


竜は首を捻じ曲げてツクモに噛みつこうとする。また避ける。


竜が翼をうち、ツクモに幾度も襲いかかる。


ツクモは特に何もせず、ただ逃げ回っているようにしか見えない。


「あれ、何をやってるんですか?」


「攻撃の隙を窺っている」


レオーンは半眼になって竜とツクモを眺めている。


竜が、逃げ続けるツクモを見据えて動きを止める。


突如、竜は猛然とレオーンとルフェニャの方へ滑り込んできた。


「まずい、耐えられない」


レオーンの防護壁を破って、竜の牙が二人に迫る。


【身代わり発動】


【挑発:標的固定:単体】


立て続けに流れる表示。


竜の開いた顎を、ツクモが盾でぎりぎり受け止めている。


でも、上牙はその肩に食い込んでいる。


【光弾ライトボム】


竜の眼前で光の球が弾けた。


突然の閃光に驚いた竜が、目玉をきょろきょろさせて退く。




【ツクモからレオーンに支援要請:回復ヒール】




「レオーン、悪い、回復術頼む。魔力を温存したい」


ツクモが肩の深手を指して言った。


【レオーンが治癒を行いました:貢献認定】


表示の合間にも、竜はツクモだけを標的に定め、襲撃してくる。


それをツクモは盾と剣でいなす。




「しょうがない、そろそろやるか」


ツクモは不敵に笑うと武器を構えた。


「武装、展開」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る