そこには灯火も桃花もなく【KAC20251】
プロエトス
短編 「そこにはあかりもはなもなく」
外は間もなく
時折、遠くで電車の走る音が聞こえる他は物音もなく、場は静まりかえっている。
そんな放課後の薄暗い教室に、ぽつんと一つだけ席に着く姿があった。
古風なデザインのセーラー服に身を包んだ女生徒だ。
小さく幾度も溜息を
そこに、ガラガラガラっと勢いよく引き戸を開ける音が響き渡った。
「――そんでよぉ……って、うはっ!?」
「おおっ!? びびった! ……なんだ、委員長かよ」
現れたのは二人の男子生徒だ。
教室には誰もいないと思い込んでいたのだろう、
「あなたたち……ハァ」
「おい、人の顔見るなり溜息とかひどくね? つか、
「
と、口々に言いつつ、男子二人は少女が座る机の端と前の席にそれぞれ腰掛けた。
しかし、三人はクラスメイトであり、昔から気が置けない
少女は特に
「そうね。うん、聞いてくれる? ……今日って、ほら、雛祭りじゃない?」
「そうだったか?」
「そうだよ、男にはあんま関係ないけどな」
「ひなまつり……女子だけ集まって階段みてえなとこに人形飾って呑めや歌えや」
「まー、だいたい合ってんわ」
出だしから話の腰を折られ、少女は
「ううん、普通はそうだけど、この辺りだと川にお人形を流す習わしになってるの。学校の裏手にある神社で流してくれるのよ。家からお人形を持っていってもいいし、その場で紙人形を作ってもらってもいいんだけど」
「へー、なんかもったいなくね?」
「それは私もちょっと思う。でも、いろいろな悪いものをお人形に肩代わりさせて、川に流すことで
「んで、その雛祭りがどうしたってのよう」
そうチャラチャラした少年に続きを
「実は……私、今日、学校にお人形を持ってきてたの。帰りに神社へ寄るつもりで。だけど、ついさっき、気付いたら、それが……」
「「それが?」」
「どこにも無いのよ」
明かりも
「う、
「……まさか、誰かに
雰囲気に呑まれたような少年たちの問いには答えず、少女は机の上に置かれていた大きめの
中から現れたのは、いかにも人形が収められていそうな
「なんだよ、それ?」
「いや、ど、どうしたら、そんな風になるわけ?」
バッグの口が開くのに合わせ、周りにボロボロと木屑が撒き散らされていく。
桐箱の蓋――天板には不格好な丸い穴が
しっかりと縛られた黒い
「……ねえ、どう思う? この穴、まるで
――ゴクリ。
「箱に入っていたのがどんな人形なのかは私も分からないの。夕べ、遅くに届いて、送り主はうちの母さんの遠縁らしいけど、朝になっても連絡は付かなかったみたい。気味が悪いし、そのまま送り返そうかとも思ったのよ? だけど、送り状には今日の流し雛に出してほしいってあったから……それなら手間は変わらないもの。むしろ、ホントに悪いものなんだったら流しちゃった方がいいかも、とか」
もう声までも震わせながら、少女は前にいる二人の少年へ向かって話し続ける。
「帰りのホームルームまではこうじゃなかった。そう、しっかりと重さがあったの。なのに、いつの間にか軽くなってて、おかしいなって見てみたら、こんな……え?」
そのとき、ふと、真正面に目を向けてしまう。
「……うそ」
「お、お、おい。どうしたんだよ」
「バカ、そこで急に話をやめんなって……」
少女は真正面――少年たちの背後を
いやいや……と、左右にゆっくり頭を振る。
必死で何かを言おうとするも叶わず、立ち上がって彼らへ手を伸ばすも
そして、最後に大きく息を吸い込み。
「二人とも逃げて!」
叫んだ。
そこには灯火も桃花もなく【KAC20251】 プロエトス @proetos
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