第59話 おばぁからの荷物②

【宮城翔】


 俺と具志堅さんのお父さんは、最初に一人で一個ずつ荷物をリビングに運んだ。

 

 2回目の荷物を運んだ時いきなり加藤さんが

 「宮城君のおばぁさん、天才」と言って俺の背中を叩いた。

 「見て、この古着の着物。まさしく私が考えていたイメージそのもの」

 加藤さんは、箱から古着を出しては具志堅さんに持ってもらって、スマホで写真を撮っていた。

 

 そして、

 「宮城君、ちょっと来て」

 

 「これ、着てみてよ」

 それは一着の剣道着だった。おばぁ、道着も送ってきてくれたんだ。他にも空手道着も5着入っていた。


 「分かったよ、加藤さん」


 それを見た具志堅さんのお姉さんの真苗さんが、

 「これって、剣道着だよね。これって、誰の道着。『沖縄 しずめ』って刺繍されているけど。もしかして麦ちゃん」


 「そうですよ。しずめは、おばぁが結婚する前の名前です」


 「沙苗から麦ちゃんは、空手ができるって聞いていたけど、もしかして剣道もできるの」


 「剣道というよりは剣術です」


 「剣道と剣術って、違うの?」


 「剣術は剣の使い方を学ぶんです。剣道は竹刀ですから。そして、剣術は色々な流派があります」


 「有名なのは北辰一刀流ですかね。坂本龍馬とかの。」


 「あ、聞いたことある。それで、麦ちゃんの流派は」


 「それが本人も知らないって言ってます。それで、以前は剣術以外にも色々な道場に通ってたらしいです」


 「分かったようで分からないような。ま、麦ちゃんだから。謎が深まってくるね。」


 俺が道着を着て出てくると、

 「宮城君、似合いすぎ」

 サムズアップしていた。


 「ありがとう、真苗さん」

 加藤さんは、腕組をしてじっと見ていた。


 「ぴったり。サイズ合ってる。本当は、宮城君も剣術できるんじゃないの」


 「いや、俺はできませんよ。真苗さん」


 「え、そうなの」


 「できるようにしか見えないけど。本当にぴったりだよね」


 「もしかすると、おばぁが小学4年生ぐらいの時の剣道着かもしれません。おばぁは小学生4年生のときにすでに、160cm以上あったらしいです」


 「私も弓道しているから、道着を着るからわかるけど、その道着、私の道着より絶対大きいよ。私が160cmだよ。私より大きいって、宮城君、前より身長伸びてるよ」


 「いや、それはないと思います。俺、4月に身長図ったとき、156cmだったんだんで」


 「いや、私より絶対に大きいって」


 「わかりました。明日、保健室で計ってきます」

 俺と真苗さんが話している間、加藤さんは俺も見ながら夢中でスケッチをしていた。


 ときどき、

 「後ろ見せて」

 

 「弓を持っているつもりで、弓を引いてみて」

 とか色々と注文を付けてきた。


 気が付くと真苗さんは、別の道着を持ち出していた。


 「あ、これは空手道着だよね。」

 武道にかなり興味があるらしい。弓道部だしな。

 「そうです、これは空手道着です」


 「道着に名前がないなぁ。いろいろな色の帯があるけど。これって子供が締める帯だよね」


 「そうです。良く知っていますね。これきっと、おばぁがお兄さんの空手道場からもらってきたんだと思います。」  


 「お兄さんの空手道場」


 「おばぁのお兄さんは、空手の道場主なんです」


 「そうなの。そうか、麦ちゃんはそのお兄さんから空手を習ったから、空手強いんだ」


 「いや、違っていて、おばぁがお兄さんに空手を教えたんです」


 「え、逆?」


 「じゃ、麦ちゃんは誰から空手を習ったの」


 「曽祖父ひいじいちゃんですかね。もともとこの道場って祖先代々受け継いできた道場らしくて、かなり古いらしいです」


 「どのくらい古いの」


 「おばぁのお兄さんの話だと、琉球王朝ができる前から稽古場としてあったらしいです」


 「すごいね」


 「もしかして、麦ちゃんは瓦を割ったりできるの」


 「できますね。ただ、川に転がっている石を割る方が楽しいらしいです」


 「え、石を割る方が楽しい。石って割れるの?」


 「割れますね。瓦よりも難しいらしいです。石を割るためには、手刀を当てる場所があるらしくて、そこにうまく当てないと割れないらしいです。そこを見極めるのが楽しいと言っていました」

 

 「小さいころは、割った後その石を二人でどっちが遠くまで投げられるか、よく勝負しました」

 あの頃も面白かったな。


 「おばぁは、大きな石を投げていたからかもしれませんが、俺、おばぁに勝つこともありましたよ。」


 「ときどき、釣りをしている人の近くまで石が届くことがあって、二人で謝りにいっていました」


 「その人驚いてましたね。あんな遠くから投げたのかって。後は、おばぁが大きいんで」


 「やっぱりそうなるよね!麦ちゃん、きれいだし」

 真苗さんが、大きな声で笑った。


 加藤さんが、俺が鎧を着て弓を持っているイラストを描いて見せてくれた。

 「やっぱり加藤さんうまいね。でも、どうやってこの鎧を作るの」


 「今、宮城君の着ている剣道着にバックの皮を縫い付ける。他にも段ボールを切って張り付けるとできる」


 「いいアイディアだね。加藤さん。さすがだよ。でも、弓は?」


 「三味線で作るからできる」


 加藤さんの目が燃えていた。真と似ている。これ言ったら何が返ってくるかわからないから黙ってよう。


 俺と加藤さんは、具志堅さんの家族といっしょに夕食を食べた。久しぶりに大勢で食べる夕食は楽しくておいしかった。

 加藤さんは、おばぁからの荷物をチェックするために、まだまだいるらしい。

 

 俺は先に帰ることにした。具志堅さんのお父さんは送ってくれると言ったけど、俺の家は遠くないので歩いて帰ることにした。

 良かった、みんなの役に立った。おばぁありがとう。違うよな。まだまだこれからだよな。


「みんななら、できますよ」

 風と一緒にカーネーションの花がやさしく揺れた。なんだか元気づけられたような気がした。

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2026年1月2日 07:00

ユタおばぁと孫 仲間 大敏 @Masatoshi555

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