第57話
高速の白馬の箱馬車がマリーの身体の横で乱暴に止まる。
「花のベッドに横たわる紅の眠り姫はっけーん!
愛のメイド騎士のキスで目覚めさせてあげますわ~☆」
御者席で立ちあがる大きな影。
あかん、こんな緊急時にヤバい人がやってきた!
ぼ、僕が飼い主少女を守らなきゃ!!
「ち、近づくな変態!」
「邪魔よ、どけっ!」
「おぅふっ!」
馬車から降りた女に蹴とばされてすっ飛ぶ。
「ふっふっふっ、合法的にマリちゃんに触れるのはこんな時ぐらい。
さあ、可愛がってあげるわよ~☆」
手にしたナイフで切り裂かれていくコート。
「や、やめろおおおおっ!」
僕の初恋の人、天使であり保護者、飼い主でパートナーのマリーがっ!
汚されて――いく?
変態女は自分のバッグから治癒テープを出すと、手際よく外傷に巻いていく。
ポニーテールをほどかせると、タオルで少女の顔や手の汚れを落とす。
タオルを畳んでマリーの枕にしたのを見て、やっと女が乱暴目的でないのが理解できた。
安心したのでよく観察する。
褐色の肌と落ち着いた緑色の巻き巻きツインテール。
その上には猫耳が揺れて、お尻の縞のある尻尾がブンブン揺れている。
一番特徴的なのは色々なところが大きい、身長、お胸やお尻が。
細い腰のセクシーな身体を包むのは黒いロングスカートのメイド服。
そうか、コイツがマリーの話に時々出ていたメイドか。
そういや今朝、マジカノートに映っていたのを見たな。
変態女がピンクとグリーンが入り混じった瞳をこっちに向けると、大きく深いため息をついた。
「珍しくペットを飼う、なんて言うからどんなのを拾ったのかと思ったら。
子供のブサイク人獣なんて、はぁ。
ホントにマリちゃんはセンスが壊滅的ね。
まぁそういうところもまた可愛いんだけど♪」
「人獣じゃないよ!
僕は獣人の子供、ダルマ。
変態……じゃない、マリーちゃんのメイドさん、名前は何て言うの?」
女は立ち上がると、マリーのコルセットの右胸のポーチを外した。
それから詰みあがったコミック肉へと歩む。
「国に入るからってまた随分たくさん焼いたわね」
ポーチを開けると片っ端から肉を入れていく。
マジックバッグは持ち主と、その人に許可された者にしか使えない。
つまりマジックバッグを使えるこの女は、マリーに近しい者という証左になる。
「フレアエル=リルジット。
それで、ダルマ」
「うん?」
いきなり名乗られて一瞬頭が追いつかなかった。
僕が聞き返すと木々がざわめき出す。
「それで、私の愛しいマリちゃんを傷つけた、
ヤーツーはーどいつだあああああああああああっっ!」
女が手にしたコミック肉の肉部分がはがれ、草木が波打つ。
メイドの殺気が強すぎて全身の体毛が逆立ち、息さえ出来ない!
「ひいいいいっ! まっ魔剣崇拝教団とかいうイカれた奴らだよ!
小さいハゲ親父とインコ女と笑ってるヤツ」
「ちっ、アイツらか、いつもコソコソと!
私が直接会ったら肉片にしてハンバーグにしてやるわ」
殺気が落ち着いて気怠そうな顔になるメイド。
フレアエルはさっき剥がれ落ちた肉を拾って口に入れた。
「うわ、汚いしはしたない!」
「マリちゃんが作ったお肉を無駄になんてできないわよ!」
「焼いたのは僕だけど――うわわっ!」
鼻先数ミリをかすめてナイフが飛んできて、大地に突き刺さった!
「よく見たらお前クソオスか!?
聖天使マリちゃんの側にオスはいらないわ!
切腹するか斬り落とせ!」
「ひいぃっ、な、何を!?」
「フレアさん……」
か細い声が割って入る。
マリーが薄目を開けていた。
多分メイドの殺気で目が覚めたのだろう。
「ダルマちゃんを……イジメないで……ぐぅ」
再び少女は寝入った。
泣ける、心の無い飼い主様の優しさに。
「あーもぅっ! マリちゃんの命令なら逆らえないし!
私が怒るのをお見通しで直前まで教えなかった小ずるさも可愛いし!
ほらフニャ〇ン犬、さっさと撤収するわよ、撤収!」
僕は激怒している。
変態女に蹴られてナイフを投げられ、暴言まで吐かれて。
しかしここで怒鳴ったり暴れたりしてもあの女には敵わないだろう。
それに今、マリーを助けられるのは彼女しかいないのだ。
僕は少女の様子を確認すると、馬車の方へ歩いて行く。
白の毛並みと金の尻尾とたてがみの立派な馬。
それはいい。
白い箱馬車の上に複数の看板が立てられて、こう書かれている。
『♪おかえりなさい、マリース様♪』
『☆マリース様、無事ご帰還おめでとう☆』
『!女神降臨!』
看板だけじゃない、あちこちにハートや星が描かれてまるでデコレーションケーキのようだ。
僕は頭が痛くなってきた。
しかしこの馬車には驚くべきところがある。
タイヤや板バネのサスペンションは魔使石(マジカストーン)製だが、上部の乗車部分は木で出来ていた。
と言っても横板をつなぎ合わせた出来た、手作り感あふれる出来だけど。
窓は魔使石がはまっている。
この時代、ガラスは工芸品で使われるぐらいだ。
外の景色を投影する魔法などで硬化魔法の容量が減るけど、板ガラスに比べて加工しやすくて安価で丈夫ならそうなるだろう。
馬車のイスにマリーを横たえると変態メイドは速歩(トロット)で走らせる。
少女はもう痛がる様子もなくぐっすり寝ていた。
落とした金の杖を抱いて。
「様子を見ていて」とフレアに言われていたけれど、特にやる事が無い。
なので窓に張り付いて外の様子を見ている。
沈む陽を背景に浮かび上がる大城国。
車輪が回る度に近く、大きく目に映る。
あれが僕を生き返らせた少女が帰る場所。
僕らが出会って約二か月。
肌寒かった風はすでに温かいものへと変わっていた。
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未完成で申し訳ありませんが、ここで休止とさせて頂きます。
理由はお察しの通りかと思います。ではまたどこかで。
心なんかいらない 館主(かんしゅ)ひろぷぅ @hiropoo
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