フェアリーテレポート ~俺が異世界に転移したのは魔王を倒すためです~
夕日ゆうや
第1話 出会い
俺はひとりぼっちだ。
特段、いじめを受けていたり、コミュ障な訳でもない。
だが、事実として俺はひとりぼっちであることを認めざる終えない。
運が悪かったと言えばそれまで。
俺は一人学校からの帰路についていた。
家に帰り、俺はコップに牛乳をそそぐ。
疲れた身体にはやはり牛乳だ。
骨密度も上がるし、背も伸びる。栄養価も高い。
育ち盛りな高校生にとって満足感も高い牛乳は重宝する。
しかし母さんまで仕事か。うちは仕事人間が多すぎる。
帰りを待つ人なんていないんだ。
一口あおり、自室へと向かう。疲れた足を前へ前へと動かす。
「お帰りなさい」
「ああ。ただいま」
いないはずの留守番娘の声が耳朶を打つ。
「へ?」
上擦った声が漏れる。
とそこには虹色の蝶々のような羽と小柄な体躯、神秘的な顔立ちをした少女がベットの上に座っていた。
まるで妖精みたいだ。
「うわぁ!? 誰だ!?」
俺は驚きコップを零す。
白濁とした液体が宙を舞い、その妖精の頭にかかる。
コップを落とし、俺は混乱する。なんだこの少女。
「わたしはメル・シー・ロロ。あなたを迎えにきました!」
妖精はニヤリと笑みを浮かべる。
「勇者さま!!」
妖精はベットから浮き上がる。
「と、飛んでいる……!」
俺は後ずさり、コップを踏み倒れそうになる。
体勢を立て直そうと身体を動かす。
千鳥足でメルの方へと倒れ込む。
「きゃっ。大胆です~ぅ!」
メルのことを押し倒す形で俺はベッドにかがみ込む。
「す、すまん。すぐにどく」
「いいえ。その心配はありません」
光が舞う。
光の円盤がいくつか現れる。
その円盤にはいくつもの文字や記号、そして円環が見て取れる。
端的に言ってファンタジー世界の魔法陣に似ている。
「な、なに? これ?」
その魔法陣がくるくると回転を始めて、俺らを包み込む。
視界がグニャグニャになり、めまいを覚えた。
俺はどうなるんだ?
青い光の中、俺が次に見たのは草原だった。
草花がさわやかな印象の世界。
青草の香る、一面緑色の絨毯。
俺は周囲を見渡すと、メルが青ざめた様子で呟く。
「転移先を間違えました」
「ここは……?」
「はい。
「どこ――!?」
俺は混乱した頭で訊ねる。
「ここはイリスメイラス。地球とは違った――異世界です!」
「い、異世界?」
どうやらラノベでありがちな異世界への転移をしてしまったらしい。
「はい。この近くの街イモルに向かいます」
「え。でもさっきみたいに転移すれば?」
さっきだって転移魔法でこっちへきたんだ。
街に移動するときだって、そうすればいい。
「あんな大技、三ヶ月に一回しか使えないですよ!」
「さん……。って、俺すぐに帰れないのか!?」
俺はびっくりして顔を歪める。
「はい。だって勇者さまだから、手伝ってくれるでしょう?」
「あ。はい……」
俺は有無を言わせない態度をとるメルに圧倒される。
「さ。行きますよ!」
そういえば、イモルと言ったか。
その街に行けばいいのだな。
こうなってしまった以上、俺はこの街に順応するしかない。
新しい世界には新しい方法で挑まなければいけない。
歩いていると人の気配を感じ取り始める。
丘から望む街はすごく活気に満ちていた。
「あれがイモル?」
「はい。そうです! 今はトリの降臨祭があるのです!」
「はぁ。そうなのか」
「はい。降臨祭があるので、勇者のあなたを召喚したのです!」
ああ。そういう理由もあるのか。
でも三時間歩くのは疲れた。
休みたい。
すぐにでもベットに潜りこみ、ゲームをしたい。
「……ん? こっちの世界にゲームは?」
「ありませんよ?」
「え。でもスマホでのゲームくらい」
「スマホゲームじたい、領民には分からないと思います!」
「……マジか」
カルチャーショックに戦いている間にポケットに入っていたスマホを取り出す。
画面にはWi-Fiやモバイルデータの通信がないことが分かる。
おう。マジか……。
「俺、こっちで生きていける気がしない」
「大丈夫です。わたしがいます!」
元気いっぱいな妖精か。
「さぁ。わたしと一緒にイモルでトリの降臨祭を楽しみましょう!」
「……分かった」
俺には断る権利なんてなさそうだ。
というか、住民と良好な関係を築かなければ、きっと後々困る。
俺はあと三ヶ月はこちらで暮らすのだから。
イモルへ行くと、周囲の人からの視線が痛い。
迷いながらも、俺はメルにつれていかれる。
「勇者さま、こちらに着替えてください!」
「あの、その前にメルが着替えるべきでは?」
牛乳がかかったままだし。
「あっ。はい。すみません!」
メルは慌てて着替え出す。
「って。俺の前で着替えないでくれ!」
慌てて目をそらす。
「貧相な身体つきですみません!」
「そこは謝らなくていい!」
なんだ。こいつ。
変な奴だ。
しかし、背中に生えている羽は、本当に妖精なのだろうか。
衣擦れの音が終わると、俺は視線をそちらに戻す。
「着替え終わりました!」
「ああ。みたいだな」
「じゃあ、次は勇者さまの番です!」
俺の服に手をかけるメル。
「いや、ちょっと。待って!」
俺はズボンを脱がされる。
「あれ? まだ何か履いていますね!」
ビシッと決めポーズをとるメル。
「……俺、帰っていいか?」
「ええ。ダメです!」
はぁ~とため息を吐き、俺は告げる。
「一人で着替えるから出て」
俺はメルを追い出し、着替える。
なんだか民族衣装みたいだ。
「着替え終わりました?」
メルがこっそり部屋から覗き込む。
「ああ」
「わわっ! 似合っていますよ!」
「これ、なんだかもっさいんだけど?」
「降臨祭の衣装ですからねっ!」
ああ。祭りの衣装なのか。
「さ。少し休んでください! 夜になれば街を練り歩くんですから」
「そうなのか……」
「はい。一緒に盛り上げましょう!」
夜。
俺は神輿のようなものに座ると、みんなが担ぎ上げていく。
そしてそのまま、街を練り歩く。
中央広場にたどりつくと、そこにはお焚き上げの準備がされていた。
メルに言われた通り、俺がお焚き上げに火打ち石で火をつける。
だいぶ手こずった。
でもなんとか火をつけることができた。
火は神聖視されている。
どこの世界でも一緒なのかもしれない。
なら、あっちの世界の常識も通じるかもしれない。
「さ。ここにあらせまするのは――勇者『
メルからの紹介を受け止め、俺は両手を広げる。
……これで、いいのか? 異世界よ。
フェアリーテレポート ~俺が異世界に転移したのは魔王を倒すためです~ 夕日ゆうや @PT03wing
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